遺されたものたち | ナノ


▼ 気持ちを言葉にして


「んんっ……」

息苦しさと鈍い痛みを感じる。呼吸がしにくいな、と思っていると首筋に何か冷たいものが当てられた。気持ちがいい。だんだんと意識が覚醒していくのが自分でも分かる。

「ん、起きたか?」
「……ゆうま、」
「まだ無理するなよ。今日は沢山話したから疲れたよな」

そう言いながら遊真は優しく私の頬や額に冷たい…濡れタオルを当ててくれる。その優しさが嬉しくて、少しくすぐったい。

「あれ…私、いつの間に寝てた…?」
「しのださんが帰ってすぐ熱を出したんだ。覚えてないか?」
「…あんまり覚えてないや」

そっか。遊真の言う通り今日は沢山話もしたし、少し興奮したりもしたから疲れたのかもしれない。体力が落ちてるなぁ、と悲観してても仕方がない。だんだん思考がクリアになってくる。熱ももう下がっただろう。

「遊真、ちょっと起き上がってもいい?」
「体調は大丈夫か?」
「うん。ありがとう」

今はまだ1人では起き上がれない私を遊真はいつも手伝って起こしてくれる。遊真の体は今は黒トリガーのおかげで眠らなくても平気…というより眠ることが出来ないらしい。だからといって一晩中私のお守りをさせているのは申し訳なくて遊真も休んでほしいと言ったけれど遊真には「好きでやってるからいい」と笑顔で言われてしまいそれ以上は何も言えなくなってしまった。

「? リン、傷が痛むのか」
「ううん。今は大丈夫」
「そうか。痛くなったらすぐに言ってくれ」

遊真の言葉にありがとう、と返せば遊真は優しく微笑んでくれる。嫌というほど実感させられる。優しい遊真。どうしても助けたい私の好きな人。


──私が取り零したものをあなた達に託してみるのも悪くないから


「……デュイさんは」
「うん?」
「もしかしたら、助けたかった人がいたのかもしれないね」

あの言葉はそうとしか考えられなかった。取り零したということは助けられなかったということ。そしてデュイさんは私に聞いていた。助けたいのは恋人かと。デュイさんが助けたかったのはきっと……

「……リンもいるのか?」
「え?」
「助けたいやつ。デュイさんが言ってたろ。リン達に託すって。……それってさ…」

遊真はそこまで言って言葉を切ってしまう。遊真ももう気付いているのだろう。私が誰を助けたいのか。でも、どうして助けたいかまでは気付いてないかもしれない。

「私……」

言うべきか少しだけ悩んだ。
私と遊真は2週間後には離れ離れになってしまう。すぐに再会することは出来ないだろう。そしてどうしても考えてしまうのは遊真の本体のこと。もし、次再会する時までに遊真の本体が保たなかったら?私達は2週間後が今生の別れになるかもしれない。嫌な予想なんていくらでも出来た。

私達は知っている。
いつ別れが来るかなんて誰にも分からないって。遺された人達はなかなか前に進めないことも身を持って知っていた。
でも、それを言い訳に前に進まないのは、もうやめる──

「好きな人を助けたいの」
「えっ、すきなひと」
「うん。絶対に助けたい。その人と生きたい。その人に笑っていてほしい。こんなに誰かを好きになれるなんて思ってなかった」

言いながらどんどん顔が熱くなっていくのが分かる。もしかしたらまた熱がぶり返してきたかもしれない。でもここまで言ってしまったのだからもう引き返せないし、引き返すつもりもない。

「だから…ちゃんと私に治されてね。私、この国で待ってるから」

遊真の目を真っ直ぐと見て伝える。綺麗な瞳。宝石みたいに綺麗な大きな瞳も、柔らかそうな白い髪も、頼もしい両手も。ぜんぶ、なにもかも好き。これが恋は盲目というやつなのでしょうか……

「リン」
「うん?」
「愛してる」
「………はい!?あ、いたた…っ!」

遊真の思いもよらない言葉に大声を上げてしまいお腹の傷に響く。いた、いたた。大丈夫か?と遊真は優しく背中を摩ってくれているけど違う、そうじゃなくて!

「あ、あああ、あい…!?」
「む?何かおかしかったか?」
「いやだって、そ、そんな、普通に言えること…?」

あ、愛してる…!?
そんな言葉口に出したことすらない私は遊真の言葉にただただ驚いているし受け止めきれていない。え、近界では愛してるが挨拶だったりします…!?
混乱する私を見て遊真は「はぁー」と溜息を吐いた。

「リンこそ、そこまで言ってるのにおれにちゃんと言葉で伝えてくれないのか?」
「えっ」
「好きな人だの治されてだの。それも嬉しいけど…もっと分かりやすい言葉が欲しいですな」

遊真は期待したような目で私を見つめてくる。
何を言うべきか、何を伝えるべきかは分かった。深く深呼吸をして、覚悟を決めた。よしっ

「遊真、すき──んっ!」

私が気持ちを伝えると同時に遊真の唇が私の唇に重なった。突然のことに驚きを隠せずにいると口の隙間から遊真の舌が侵入してくる。

「ん!?ふっ、ゆぅ、…んんっ…!」

遊真の舌に自分の舌も絡め取られながら何かを飲み込まされるのが分かった。夢では何度も遊真とキスをしたけれどこれは夢じゃない。

「んぅっ、ん、ぁ、…」

その事実が嬉しいのと同時に混乱を極めた。遊真のキスはどんどん深くなっていって呼吸すらままならない。酸素が足りずに生理的な涙が滲んでくると遊真はやっと唇を離してくれた。

「んっ。やっとちゃんと起きてる時に出来たな。たいへんまんぞくです」
「お、起きてる時……?」

はぁはぁ、と肩で息をしながら遊真にそう尋ねると遊真は満足そうな表情で答えてくれる。

「今痛み止め飲ませただろ?おれ、リンの意識が戻らない間はずっとこうやって薬を飲ませてたんだよ」
「………えっ」
「あれ?もしかして…気付いてなかった?」

えっ。
えっっ。
え!?!?

「あ、あれ、夢じゃなかったの!?」
「ほう?リンはおれとちゅーする夢を見てたと思ってたってこと?」
「そ、それは……!んっ、」

ちゅ、と。
遊真は触れるだけのキスをして笑ってくれる。

「リンかわいい。すき。だいすき」

そんな顔をされてしまったらもう何も言えない。
わたしもだよ、とか。わたしもすき、とか。
ガラにもないことをこの夜はお互いたくさん伝えて、次の日私はまた熱を出すのだった。



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