遺されたものたち | ナノ


▼ 来訪者

私の意識がハッキリと戻ったのは1週間後だったらしい。というものの、当人である私は何が夢で何が夢ではなかったのか起きた時点では混乱していて、アフトクラトルの追っ手に酷い目に遭わされたことはどうやら現実だったらしい。手当てをしてくれたのはデュイさんで、デュイさんの処方してくれる薬が切れるとすぐ分かるほど私の体はまだまだ痛みを訴えていた。

「デュイさんの薬はすごいな。全然痛くないのか?」
「うん。動くと痛いけど…安静にしてれば全然痛くないよ」

私が意識を失っている1週間も、そして目が覚めた今も遊真はずっと一緒にいてくれたらしい。私はこの1週間うなされるし高熱は出すしでデュイさんと遊真には本当に迷惑をかけたと思う。だというのに2人とも目が覚めた私に恨み言の一つも言わずに今も優しく接してくれている。私がこうして生きているのも意識が戻ったのも2人のおかげだ。
夢にもよく遊真が出てきた気がするけれど…えっと、夢だよね。その内容は思い出すとなかなかというか。かなりというか。その、遊真本人に確認できないほど欲望に塗れている夢を見ていたのだからタチが悪い。

「? リン、顔が赤いぞ?また熱がぶり返したのか?」
「え、ううん、な、なんでもないデス…!」
「む。ウソついたな今」

そう言って遊真は私の心配をしてか私の額に手を当ててくる。意識しないなんて無理で、どうしても遊真の口元に目がいってしまう。そう、私は遊真とキッ、キス、をしてる夢を見てしまったのだ。しかも一回じゃない。何度も。そんなことあるわけがないのに欲望に忠実すぎる夢を見たあとから前以上に遊真を意識してしまって堪らない。だけど、一緒にいられるのは嬉しいのでこの状況に甘えてしまってるわけで…

「はいはい。イチャイチャしてるところ悪いけど、どう調子は?」
「デュ、デュイさん!」
「お。デュイさん」

いつの間にか部屋の入り口に立っていたデュイさんが呆れたような顔で私達に近付いてくる。私が意識を失っている間、ずっとここに残っていてくれた遊真とデュイさんはすっかり打ち解けていた。

「薬がよく効いてるみたいね。まだ切れるとすぐに分かるでしょ?」

デュイさんにウソを吐く必要はないけれど、最初の頃にまだ全然痛むのに「大丈夫です」と答えたら遊真に「はいウソ」と看破されてしまったため今はちゃんと正直に答えるようにしている。

「はい。薬が切れると…会話も難しくなりますね」
「そうでしょうね。本当ならまだ絶対安静だし。今の薬は…まだ2時間は保つわね。リン、あなたに来客よ」
「え?」

デュイさんは「どうぞ入って」と言葉を続け、部屋に入ってきたのは

「忍田さん!」
「しのださん、お疲れ様デス」
「斎藤、遊真君……」

私がどれだけ謝罪しても足りないほど迷惑をかけたであろう忍田さんだった。




「両脚と右腕が綺麗に折られてるけど、それよりも腹部の傷が厄介ね。ちゃんと治るまでは感染症の心配もあるし、何より失血で体力がかなり落ちてるわ。そうね…リハビリも込みなら全治6ヶ月ってとこね」
「6ヶ月……」

斎藤の意識が戻り会うことも会話をすることも出来ると遊真君から連絡をもらい私はデュイと名乗る医者の元へと向かうことにした。三雲君も一緒に来たいと言ってくれたが今は隊員達を出来る限り遠征艇から離したくない。これ以上被害が出るのは避けたかった。
私一人で向かうのも危険かもしれないと言われたが、もし襲われた場合この前の三雲君達のように分断されるほうが危険だと判断し私は一人で向かい、そしてデュイ先生の元へ辿り着き斎藤の容態について聞かされていた。
斎藤の怪我の度合いはそれを目撃した者、そして遊真君からの通信により聞いてはいたが思った通り良くはないようだ。
先日のヒュースの進言もある。私は……

「あなた達、アフトクラトルへ行くの?」
「……それは、」

デュイ先生の言葉に咄嗟に答えられず言葉を飲み込んでしまう。斎藤の命を救ってくれた彼女を疑うわけではないが違う国の人間に情報を漏らすのは得策ではない。しかし彼女はアフトクラトルという単語を口にした。疑いたくはないが、誰かが彼女に漏らしてしまったのだろうか。そんな私の不安を察してか、彼女は言葉を続けてくれる。

「安心して。別にあなたの仲間は誰も私に情報を漏らしてないわ。この足止めのやり方を知っていただけ。私も昔はアフトクラトルにいたから」
「…!やはりこのやり方はアフトクラトルの拷問だったのか…」
「ええ。私は嫌いだったし、上の方でも意見は割れてたんだけど…まだ実行してるなんてね。相当あなた達にアフトクラトルに来てほしくないんじゃないかしら」

ヒュースの話してくれた情報と合致している。どうやら彼女は本当にアフトクラトルに属していた過去があるのだろう。

「それで?」
「? それで、とは」
「リン、どうするの?この国に捨てていくか無理矢理連れて行くか。あなたの国ではどう決定するのかしら」

デュイ先生のその言葉は今までとは打って変わってとても冷たいものになった。おまえはリン という少女を見捨てるのかと。彼女の目はそう語っている。

「…私達がこの国に滞在出来るのはあと2週間ほどだ。2週間後、斎藤を連れて行くことはデュイ先生から見て可能だろうか?」

デュイ先生の表情は冷たいままだ。私の言葉に呆れたのか失望したのか、これ見よがしに大きな溜息をついて質問に答えてくれる。

「そうね。連れて行くことは出来るわよ。死ぬと思うけど」
「…!」
「腹部の傷も塞がらない。両脚も動かない。挙げ句の果てには腕も折られてる。そんな子を戦地に連れていく意味ってあるのかしら?」

デュイ先生の言っていることはあまりにも正論だ。斎藤を連れて行く意味はない。いや、連れて行くのは間違っている。彼女は酷く辛い目に遭わせてしまった。せめて完治するまではゆっくり療養に専念してほしい。だがそれを待っていればアフトクラトルは軌道から逸れてしまう。

私は……ボーダーの代表として……1人の人間として……

「さて。答えを聞かせてちょうだい。シノダ?」

楽しそうな声でそう言うデュイ先生の目は全く笑っていなかった。



prev / next

[ 戻る ]



×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -