遺されたものたち | ナノ


▼ 今日は厄日


……あつい

最初に感じたのは熱さだった。
いつの間にか気絶していたらしい意識が少しずつ覚醒していく。それと共にゲホッ、と息を吐いた。息苦しい。はぁはぁ、とうるさいくらいに自分の呼吸音と鼓動が鼓膜を揺らす。


やっと覚醒した私が見たものは──



「………ぅう、」

軽快な音楽が私を夢の世界から引き戻す。
いつものように音を発しているスマホを手探りで探してアラームをoffにする。
これまたいつも通りならふぁー、と伸びでもしてゆっくりとベッドから降りるのだけれど今日は夢見が最悪であったため体を起こしてもベッドから降りることもせず両手で顔を覆って深く溜息を吐いた。

「はぁー…、昨日寝るの遅かったもんなぁ…」

寝不足による夢見だろうか。そんな後悔をしつつ再度溜息を吐いていると背中がぐっしょりと濡れているのに気付く。どうやら汗もかなりかいてしまったようで気持ちが悪い。時間を見ると残念ながらシーツを洗っている時間はないけれどシャワーを浴びる時間くらいは作れそうだ。朝ご飯を食べなければ、だけど。

「……学校に着いてから食べればいっか」

そうと決まれば即行動。素早くベッドから降りて私は風呂場へと足を急がせるのであった。



「ほー?慌てて玉狛を出たものの登校中に重そうな荷物を持ったおばーちゃんを見かけて放っておけなくて?」
「そんで家まで荷物を一緒に運んで遅刻したってワケ?」
「うぐ、嘘じゃないもん…」

クラスメイトである出水と米屋はニヤニヤと笑みを浮かべながら私の遅刻した理由を楽しそうに復唱する。まあ、一字一句間違わずにその通りですよ。朝シャワーが思ったよりも気持ち良かった私は予定していた時間よりも長くシャワーを浴びてしまい予想した通り朝ご飯なんて食べる暇もなく玉狛を飛び出した。この時点では朝ご飯を食べ逃しただけで遅刻は免れていたかもしれなかったがそんな私の目に飛び込んで来たのは重そうな荷物を持ったおばあちゃん。なんでこんな朝早くから?と疑問には思ったものの目にしてしまっては無視は出来ない。声をかければ最初は遠慮していたものの手伝いを快く受け入れてもらい、最終的にはお礼にとお菓子を頂いてしまうほど感謝されたのである。
…その結果見事に遅刻したんですけどね。

「別に嘘だとは思ってねーけど。お前結構遅刻するから気をつけろよ」
「まあおれらはボーダー特権で目を瞑ってもらえることもあるけどな」
「いやいや。遅刻の理由はボーダーに関係ないからウソはつけないよ」
「真面目ぇ」

出水が言うように私はその、まあまあ遅刻が多い。そして米屋が言ったようにボーダー隊員ということで多少多めに見てもらえることもあるけれどそれはあくまでも「ボーダー隊員」としてであり、今朝のおばあちゃんの手伝いをしたのは完璧に私個人の都合なので多めには見てもらえるはずもなく。担任にも「遅刻が多い」と釘を刺されたところだった。

「斎藤ー、」
「はーい?」
「悪いんだけどこれ、職員室まで持ってってもらえるかー?」
「はーい。分かりましたー」

さっきまでの授業を担当していた先生にそう言われて返事を返すと出水と米屋がうへぇ、と嫌そうな顔を隠すこともなく晒してくる。なんだその顔?

「いやリンさ。お前ほんと断ること覚えたほうがいいぜ?」
「なにを?」
「お前係じゃねーだろ?なのに殆どの先生がお前に頼み事するようになってんじゃん」
「うーん、そうかな?」
「「そーだよ」」

確かによく頼まれごとをされるなとは思っていたけど気にするほどでもない。先生も沢山荷物を持っているし全部持ち切れないなら手伝ってあげればいいと思うし。

「ま、嫌じゃないし別にいいよ。行ってくるね」
「手伝おーか?」
「ありがと。でも一人で大丈夫だよ」

そう言って席を立って先生にお願いされたクラス全員分のノートを持ち上げる。ちょっと重いけどまあ、職員室までだし。そう自分を奮い立たせて私は職員室へと足を運ぶことにした。

「うーん。良い奴なんだけどなぁ…」
「良い奴っつーか…危なっかしいよな。変に利用されそうで」
「それだ!そーなんだよ槍バカ」
「だよなぁ弾バカ」





学校が終わり防衛任務担当地区へと足を進める。今日は天気は良いけれど少し寒い。その分夜は綺麗に星が見えるかもしれない。寝る前に屋上に出て星を見るのもいいかも、なんて。
そんなことを考えて歩いているとガシャン、という音が聞こえてくる。音がしたほうへ目を向けると子供が自転車に乗る練習をしているようだった。確かにこの河川敷では自転車の練習をする子はたまには見かけたけれど一人で、というのは心配だ。すぐ側には川だってある。もし間違って落ちたりでもしたら──


「えっ」


バシャ、と。まさか自分が想像した最悪の状況が目の前で起こるなんて思ってもいなかった。自転車を練習していたその子は地面ではなく川へと転がり落ちて行って、

「……大変!!」

なりふり構っていられなかった。
服を着たまま川に入ったら危ないとか、何か掴まれるものはないかとか。そんなことを微塵にも考えずに私は持っていた荷物を放り出して川に駆け込んでその子の体を力強く掴んだ。幸いここは浅くてその子も溺れてはいないようで…

「大丈夫!?」
「? お、おう」

むしろ私のしていることが全く理解出来ない。と言ったような表情で首を傾げられるのだった。


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