遺されたものたち | ナノ


▼ 医術の国メディル

「リン」
「ん?どうしたのヒュース」
「次に停泊する国がおまえの目当ての国だ」
「──え!」


遠征メンバーを目指すと決め、そしてそれは叶うこととなった。以前よりも大きくなった遠征艇は今までよりも遠征メンバーを増やすことに繋がりそれは私を含めチームとしてではなく個人としてメンバーに選ばれるという例外も可能にするものだった。私も、そして修や遊真たちを含む玉狛第二も無事遠征メンバーに選ばれて私達はアフトクラトルへ向けて既にいくつかの国に停泊をしながら目的地へと近付いていた。
ヒュースはアフトクラトルまでの国にも詳しいらしく、ガイドとしてもとても優秀に働いてくれている。彼自身がアフトクラトルに帰りたい、という目的があるからこその協力関係だけどこんなにも頼もしいものはないと忍田さんも喜んでいた。そして──

「次に停泊予定になる国はメディル。医術に長けた国だ」
「医術?トリガーを使って治療でもするのか?」
「そうだ。腕は良い。他の国からも治療に訪れるものも多い。そしてこの国を越えれば次はアフトクラトルへそのまま向かえるだろう」

へーえ。とヒュースに質問をした太刀川さんは興味があるのか興味がないのかよく分からない空返事をする。他の隊員の興味も次の国ではなく、遂にその次に迫ったアフトクラトルに既に移っていたけれど私だけは違う。私の目的はまさに次の国にあるのだから。

「ただこの国の医療関係者は金が全てだ。金のないものには見向きもしない」
「うーわ。なにそれ感じ悪いなぁ」

菊地原くんが心底嫌そうな声をあげる。確かに治療にはお金は必要だけど見向きもしないっていうのは引っかかる…けどそんなことを言ってる場合でもない。滞在期間内に少しでも有力な情報を仕入れようと私は密かに意気込むのであった。


「うーーーん、読めない」
「ここの人は一応医学書を取り扱ってるって言ってましたけど…」

メディルという国に無事停泊することに成功し、私と修は医学書を求めて何軒かそれっぽい建物を巡っていた。今回の遠征では停泊中に比較的平穏そうな国では遠征艇に半分、そして残りの半分はその国の偵察へと向かうことになっていた。人選は大体が3-4日で交代。偵察に向かう時は2人以上での行動及びトリオン体であることが厳守とされていた。ちなみに千佳ちゃんだけは停泊している国では遠征艇から出ることは基本出来ず、護衛として遊真。そしてあまり姿を見られるのを得策としないヒュースが案内時以外は側にいることとなっていたためチームではなく個人で参加している私は修と今回の遠征では大体一緒に組むことになっているのだった。

「やっぱり遊真かヒュースのどっちかは連れてきたいよね…適当に買ってく?」
「でもこの国はお金がかかるってヒュースが言ってましたよね…?」
「言ってた……」

見事な八方塞がりである。折角医術に長けた国とやらに来られたのにこれではいけない。どうしようかなぁ、と思いながら外に出るとある光景が目に入る。私と修は顔を見合わせてすぐにその光景が広がる場所へと走って行った。

「大丈夫…!?」
「うっ……」

そこにはハァハァと肩で息をしている子供が倒れていた。抱き起こしてみても意識が朦朧としているせいか会話が出来ない。そしてこの国の人は倒れた子供に見向きもせず皆通り過ぎてしまう。その異様な光景に腹が立った。

「誰か!お医者さんはいないんですか!?」

私がそう叫ぶと周りにいた人は少しだけ私達のことを見て、すぐに目を逸らしてしまう。

「なっ…!?」

その信じられない対応に次は修が同じように声を上げるけど周りの人の対応は変わらない。この国は医術に長けていると言っていたのに、倒れた人に見向きもしないなんて…!

「金はあるのか?」
「そんな小汚い子供、助けても全然儲からないだろ?」

そんな信じられない言葉がちらほらと聞こえてくる。ヒュースは言っていた。この国はお金が全てだって。ああそう。でも私はこの国の人間ではないので。
ハァハァと苦しそうな男の子を背負うと修も私のやろうとしていることを理解したのか後ろから男の子を支えてくれる。クスクス、と。馬鹿にしたような笑い声が聞こえてくるけど関係ない。遠征艇に戻れば何か薬があるはず。とにかくまずは解熱剤を──

「ねえ」

人だかりを抜けたところで突然フードを被った人に声をかけられる。私も修もまさか声をかけてくれる人がいるなんて思っていなかったから驚いているとその人は言葉を続けた。

「その子、知り合い?」
「え?ううん、知らない子だけど…」
「ふーん…」

フードを被った…声からして女性は腕を組んで黙り込んでしまう。私と修は顔を見合わせてお互い頷いた。

「すみません。ぼくたち急ぐので…」

修の言葉に私も頭を下げると再びその女性は言葉を発した。

「その子を助けたところで何の得にもならないわよ。それでも助けたいの?」

なるほど。この人もどうやらお金が目当てなのだろう。助けたいならお金を払えということなのだろうか。命を助けてもらう対価がお金なのは理解出来る。そして私たちにはそんなお金はない。だけど──

「「見捨てることは出来ない!」」

私と修の声が綺麗に重なる。今度こそ二人で頭を下げてこの場を後にしようとすると、

「……来なさい。助けてあげるわよ、その子」
「……え?」

そう言ってフードを被った女性は振り返ることなく進んでいく。私と修はやっぱり顔を見合わせて、少しだけ悩んでその人の後をついて行くことにするのだった。



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