遺されたものたち | ナノ


▼ 目的へ向けて

ごろん、とベッドの上で仰向けになってはぁーー、と長めのため息を吐く。重い。何もかもが重すぎる話だったなぁ、とさっきまでの遊真との会話を思い出しては何回かため息を吐き続けた。
自分の過去を話したことに後悔はない。…心の内まで晒すつもりはなかったけれど、ウソをついても遊真には通用しないと解ったからこそ言いやすかったのも確かだ。…ううん、そんなことより。遊真の過去のほうが驚いたっていうのが本音だ。いつも優しくて頼もしい、見た目よりも全然大人びて見える遊真。初めて会った時はこんな綺麗な子がいるんだって驚いたほど綺麗な男の子。だけど、遊真がたまに寂しそうな表情をするのには気付いていた。理由は今さっきまで知らなかったけれど、そんな顔してほしくないなって。笑っていてほしいなって思っていた。でも……

(戦争で何かあったのかとは思ってたけど、お父さんが…)

遊真の代わりに命を落とした遊真のお父さん。それを目の前で見てしまった遊真。…背負うにはあまりにも重すぎて、そして残されてしまった気持ちは痛いほど理解出来た。

「それでも……」

遊真が生きていてくれて嬉しい。初めて、自分がこちら側の立場になってこの言葉が心からの本音だったことが分かった。そしてそれしか言えない自分が歯痒かった。私に声をかけてくれてた人達もこんな気持ちだったのかな…

「…………」

遊真の話だと、遊真はいつ自分の体に限界が来るか分からないらしい。黒トリガーの中の本体が死ねばそれで終わりだと。それは、それが寿命だと言うのなら遊真は受け入れるのだろう。でも私は嫌だった。遊真に生きていてほしい。でも、遊真の体を治す術が分からない。少なくとも、日本でそんな重傷者が助かったなんて私は聞いたことが……

「あっ、」

そもそも。この国はトリガー関連ではかなり遅れをとっているとクローニンが言っていたのを覚えている。トリガーに頼らなくても栄えているから良いけどね、とも。遊真の体は今、それこそ黒トリガーの中にある。この国に方法がないのなら、他の国ならもしかして……



「わっ!?」

体に衝撃が走り『活動限界』という機械音が聞こえてくる。ちなみにこれで何回目か分からないほど今日は負け越していて流石に訓練相手も眉を顰めている。あわわ…!

「…リン」
「いや、ゴメンナサイ。集中力に欠けてますねはい…」
「解っているならいい。体調が悪いならこれ以上付き合ってもらわなくても良いが」
「体調は悪くないんだけど…その、ヒュース?」
「なんだ」

ヒュースとの訓練は私が上の空のせいで訓練になっていない。申し訳なさでいっぱいだけどそれには理由があるのです。私はヒュースに聞きたいことがあった。でも答えないだろうなぁ。と自分の中で自問自答をしながら訓練をしていたら集中力なんてあるはずもなく。このままでは埒があかないのでもう聞いてしまおう。

「その…近界にさ、」
「本国のことなら何も話す気はない」
「あ、うん。それは分かってるし答えられなかったら答えなくて良いんだけど…一応聞くね?」

私の言葉にヒュースは腕を組んで質問を待っている。聞く耳すら持たない、という態度でないヒュースに安堵を覚えながら私は言葉を続けた。

「近界には医術に長けてる国ってあるのかな?」
「医術?」
「うん。この国も医術にはかなり長けてると思うんだけど、トリガーを使った方法は全然ないからさ」
「…………………」
「…………………」

……ち、沈黙が、痛い…!
まあ言えないよね。ヒュースに無理強いする気は全くないし早めに切り上げてしまおう。

「いやごめん!困らせるつもりはなかったので忘れて!」
「……一つ確認したいが」
「う、うん?」
「それはこの組織に頼まれたことか?」

この組織?
あ、ボーダーから探れって言われたかってことかな。

「ううん。私の個人的な興味」
「…………」
「ごめんごめん。ほんと、大丈夫!何も聞かなかったことに──」
「ある」
「えっ」

ヒュースの言葉に目を見開く。
え、今。あるって言った…?

「……これ以上は今は言うつもりはない」
「…! ありがとう!ありがとうヒュース!!」

ヒュースの手を両手で握ってぶんぶんと振るとヒュースは居心地が悪そうにしていたので再び謝罪をして距離を取る。そっか、あるんだ。へぇ。あるんだ。ふーん。

「ヒュース」
「…なんだ」
「私も、遠征メンバー目指すことにしたよ」




「おつかれ」
「あれ、遊真?モニターで見てたの?」
「ふむ。リンが楽しそうにヒュースの手を握ってたくらいからな」
「うえ!?あれ見られてたの?恥ずかしい…!」

あはは、と上機嫌に笑いながらリンはひと足先にこの場を後にした。

おれが帰ってきた時、リンとヒュースが訓練をしてると聞いたので見に行って見ればなんだかリンとヒュースは楽しげに手を握って、なんならリンはスキップまでしていた。楽しそうだな、と思いつつもちょっと面白くないなーなんて思ってブースには入らずモニター越しに二人の十本勝負を見守っているといつもなら半々くらいの勝率なのに今回は9-1という結果でリンが勝ち越していた。

「ヒュース。おつかれ」
「…………ああ」

お、不機嫌。まあボコボコにされてたしヒュースにとっては面白くない結果だったろうな。それにしても、おれの目から見ても今日のリンは調子が良かったしそういう日もあるだろう。

「リン凄かったな。流石こなみ先輩達のチームメイトって感じですな」
「…リンは遠征メンバーを目指すと言っていた」
「ほう?」

それは初耳だ。ということはこなみ先輩達も一緒に遠征行きを目指しているのだろうか?そんな話聞いたことなかったけどな。

「人選方法は知らないがあの腕なら選ばれる可能性は高いだろう」
「確かにな」
「協調性もある。人格にも問題はない」
「ふーん。ヒュース、随分リンのこと気に入ったんだな」

おれの言葉にヒュースは少しだけ眉を顰めてはぁ、と息を吐いた。

「勘違いするな。俺はお前のような感情は抱いていない」
「……ふむ?」
「…見るものが見れば分かる。俺はもう行く」

ヒュースはそう言い残すとこの場を後にした。…色々思うことはあるけれど、一番気になったのは。



「リン、遠征メンバーを目指すのか?」

初耳だったこの情報だ。いつものように屋上にいるとリンが風に辺りに来たと言ったので他愛のない話をして、そして気になっていたことを口にした。

「あ、ヒュースから聞いた?うん。目指す!」
「初耳ですな。こなみ先輩達も一緒に目指すのか?」
「ううん。私が今日決めたの。こなみ達は巻き込まないよ。個人の成績で目指すつもり」
「それはまた。何かやりたいことでも出来たのか?」

そう聞くとリンは

「うん。やりたいことが出来たの!」

本当に綺麗な笑顔でおれにそう微笑むのだった。



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