遺されたものたち | ナノ


▼ 似た者同士

自分の過去を、自分の気持ちを口にしたのは初めてだった。どうしてかな。遊真にはウソが通用しないって分かったからかな。それとも遊真の昔の話を聞いて、自分も話してみたくなったからかな。答えは出なかったけれど私は今、紛れもなく本心を口にした。けれどこんなつまらない話を聞かされても遊真は困るだけだろう。なんだか自分の不幸に酔ってるみたいで格好悪い。私は気まずくならないように笑顔を浮かべて遊真に向き直った。

「はい!これが嘘偽りない私のお話でした。恥ずかしいから皆には内緒ね!」

はいおわり!と手を叩いて強引に話を切ることにした私とは違い、遊真はどこか寂しそうに微笑んでいる。やっぱり気を使わせてしまっただろうか。気を使われるのも、可哀想だと思われるのも嫌なのでなんとかこの空気を変えようと口を開くと──

「おれも、親父がおれの代わりに死んだ時。どうしておれが生き残ったんだろうって思ったよ」

遊真は寂しそうな表情のままそう口にした。

「……あ、」

少し考えれば分かることだった。
遊真の生い立ちは私が想像なんて出来ないくらい壮絶なものだった。目の前で父を亡くして…それを…自分のせいだと今も思っているんだ…

「上層部の奴等も皆おれじゃなく親父に生き残ってほしかったって思ってたしな。まあその気持ちは分かるけど」
「そんな、そんなことないよ!」

咄嗟に遊真の言葉を遮ってしまう。だって、そんなことを言ってほしくなかったから。

「なんでそう思うんだ?」
「えっ」
「親父が死んで、おれのほうが生き残って良かったって。リンはそう思うのか?」

遊真は真剣な顔でそんなことを聞いてくる。私は遊真のお父さんのことを何も知らない。だけど、何も知らないからって遊真のお父さんが死んでも良かったと思えるはずがない。叶うのならば、もっとずっと遊真と一緒に生きてほしかった。それでも、

「だって、私は遊真に会えて嬉しい。遊真が今、生きてて嬉しいよ。だから私は遊真が生きててくれて…良かったって、おも……」

自分で言っていて気付いてしまった。私はそう言われるのが嫌だったことに。リンが生きてて嬉しいよって。色んな人が言ってくれた。お母さんもお父さんも、全然知らない人も、本当に沢山の人が。誰よりも自分が生き残ったことが嫌だった私にとってそれはあまりにも惨い言葉だったのに。
サッと。血の気が引くのが分かる。私は自分が言われて嫌だったことを遊真に言っている。




リンの顔から血の気が引くのが分かった。ああ、多分おれは今のリンの気持ちが分かる。リンが言った生きててくれて嬉しい、と言う言葉はおれもたくさん聞いてきたからな。その度に思い知らされた。親父が生きてて嬉しいって思う人から、おれは親父を奪ってしまったんだなって。だからおれが生きてて嬉しいと言われる度に、有り難かったし勘弁してほしかったってのが正直なとこ。まあおれはうっかりそれをレプリカに漏らして珍しくレプリカを怒らせたことがあったんだけどな。

「すまんすまん。そんな顔をさせたかったわけじゃないんだが…ふむ」

リンはぶんぶん、と首を横に振る。その表情はあまりにも痛々しい。そういえば…

「迅さんが言ってたんだ。おれとリンは似てるって。その意味がわかった気がする。おれもリンも、……」

たぶん自分が一番自分を許せないんだよ。
出かけた言葉をおれは飲み込んだ。あまりそう言う言葉を口に出すのは好きじゃなかったし、リンを追い詰めるようなこともしたくなかったから。

「まあ、おれはこっちの世界に来てからは楽しいよ。オサムとチカと遠征に行くって約束もしたし、カゲ先輩たちとのランク戦も面白い。レプリカも探しに行かなきゃならんし案外やりたいことはたくさんあるな」
「…そっか。うん、楽しいことはいっぱいあるよね」

そう言ってリンはやっと少し笑顔を見せてくれた。うん。やっぱりおれ、リンは笑ってる顔のほうが好きだな。

「だから、まあ。リンはあまり無茶はしすぎるなよ。こなみ先輩も言ってたぞ。リンはすぐに無茶するからーって」
「ふふ、そうだね。こなみにまた怒られちゃう」

じゃあそろそろ部屋に戻るね、とリンは腰を上げる。お互いかなり重い話をしたけれどなんとか空気が戻って良かったな。…リンの優しさは、罪の意識からくるものだったのか。それはあまりにも悲しくて辛いもんだな…

「遊真」
「ん?」

リビングのドアに手をかけ、リンは振り返っておれの方へと向き直る。

「それでも私は、遊真と出会えて嬉しい。遊真に生きててほしいって思うよ」

おれのサイドエフェクトに一切引っかからないリンの言葉。色々思うことはあっても、リンは本当におれに出会えたことを嬉しく思ってくれている。それは素直に嬉しかった。

「おれもリンと会えて嬉しいよ」

そう言うとリンは嬉しそうに微笑んで今度こそ部屋を後にした。
嬉しいよ、ウソじゃない。あの日必死におれを川から引き上げたリンのことを綺麗だなって思ったのはほんと。その見た目も、話す言葉も。ぜんぶ綺麗だったんだ。


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