いちばん | ナノ

仲良しの友達


「なかなかカゲ先輩には勝ち越せませんな」
「は、ったりめーだ」
「でも今日は結構惜しかったんじゃないか?」

カゲ先輩とむらかみ先輩といつものようにランク戦を終えてそんな感想を言い合う。2人とも本当に強くてなかなか勝ち越すことが出来ないけどそれが良い勉強になっていて、何より楽しい。仮想空間で命の補償がされた訓練が出来るのはこの国の優れたところだな。

「空閑、今日もうちに食いにくるか?ゾエ達も来るみてーだし」
「いや。今日はリンと約束がありますので」
「あ?やっぱりおまえらデキてんのか?」
「でき…?」
「カゲはおまえとリンが付き合ってるんじゃないかって気にしてるんだよ」
「なるほど。ご期待に添えなくて悪いけどおれとリンは友達だよ」

おれの返答にカゲ先輩は「つまんねー」と溢す。ふむ。確かおれも初めてオサムにチカを紹介された時にそんなことを言った気がする。オサムとチカは仲が良かったからてっきり付き合ってるのかと思ったが違った。今のおれとリンもそういう風に見えているということか。

「でも確かに最近リンとよく一緒にいるよな」
「リンは面白いし一緒にいて楽しいよ」

最初こそよくウソをついたリンだったけどおれのサイドエフェクトのことを知ってからは吹っ切れたように見えるしよーすけ先輩が言っていた壁とやらもなくなった気がする。付き合うとかはよく分からんがリンに対して今のところそういう感情は抱いたことはないが一緒にいるのが楽しいから一緒にいるっていうのが現状である。

「じゃ、そろそろ行くよ。カゲ先輩、むらかみ先輩。またね」
「おう」
「またな」

二人に手を振ってその場を後にした。今日は期間限定とやらのハンバーガーをリンと一緒に食べに行く約束をしていて楽しみでしょうがない。おれは初めて食べるハンバーガーを想像しながらリンとの待ち合わせ場所へと足を急がせるのであった。


***


約束通りバーガーショップに空閑くんと訪れた私達はお目当ての期間限定のハンバーガーセットと空閑くんは太刀川さんの好きなきなこシェイクも注文して席に着いた。いただきます、と手を合わせていざ一口齧ると──

「む!うまいな!」
「でしょ!美味しいー!」

ハンバーガーは一年前の記憶通りとても美味しくて思わず頬が緩んでしまう。空閑くんも満足そうに頬張っていて微笑ましい。このハンバーガー期間限定なのが勿体無いよねぇとか。太刀川さんの好きなきなこシェイクは甘くて美味しい!とか。そんなまるで学校の友人と何も変わらない会話を繰り広げているうちにあっという間に食べ終わってしまった。
まだ飲み干してないジュースを少しずつ飲みながらいつものように他愛のない話を続けていると

「そういえば今日、カゲ先輩にリンとデキてるのかって聞かれたぞ」

なんて。空閑くんからなんだか最近聞いたような話を振られる。

「なにそれ。…いや、そういえば私も昨日出水くんに同じようなこと言われたなぁ」

二人して首を傾げてしまう。確かに最近私達はよく一緒に行動してるけどそれがすぐに「付き合っている」ということに結びつくものなのだろうか。よくわからないけど。

「うーん、やっぱり年頃の男女が仲良いとそういう話になるのかなぁ」
「ニホンはそういうものなのか?」
「近界は違うの?」

ただの好奇心から思ったことを口にすると空閑くんが少し驚いたような顔をする。まさか空閑くんのいた近界の国では男女は一緒に行動してないとか?そんなことあるのかな?

「リン。俺が近界民って知ってたのか?」
「え?あ、うん。私これでもA級一位の隊員だからさ。何かあった時のために割と最初の頃から聞いてたよ」

それこそ私は空閑くんが黒トリガー持ちの近界民ということを知っている。遠征から帰ってきて船酔いでダウンした私と冬島さん以外は空閑くんの黒トリガーを奪取する任務を言い渡されていたからだ。結果は風刃持ちの迅さんに一杯食わされて空閑くんは無事ボーダーに入隊することが出来たのだけど、それでももし空閑くんがボーダーに害を及ぼす存在と判断されれば私達A級一位の隊は必ず討伐に向かわなければならなかった。うん、空閑くんが害を及ぼす存在じゃなくて本当に良かったな。

「リンはおれが近界民って知ってて、なのに仲良くしてくれてたのか?」
「ん?どゆこと?」
「あんまこっちじゃ近界民は良く思われてないだろ?」
「ああ、なるほど。私そういうの全然気にしないからなー。だって空閑くんは空閑くんだし」

例え日本人であろうと近界民であろうと空閑くんが空閑くんであることに変わりはない。…まあ、ボーダーには近界民に恨みを持つ隊員も確かにいるからあまり大声では言えないのだけど。

「で。近界でもやっぱり年頃の男女が仲良いとすぐに恋愛に結び付けちゃう?」
「…そうだな。むしろニホンより結構早めに勘繰ってたかもしれんな」
「え!そうなんだ。やっぱり日本人って消極的なのかな…?」

残っていたジュースも飲み干して二人でごちそうさまでした、と手を合わせる。美味しかったしお腹も満たされたしで満足して店を出てゆっくりと歩いていると

「リンは今まで誰かと付き合ったことはあるのか?」

なんてとんでもない発言を空閑くんが投げかけてくる。

「は!?な、なにその質問…」
「いや気になって」
「………………アルヨ」
「お、久々につまんないウソついたね。リン」
「もー!反則反則!」

見抜かれると分かっていてもついたウソは当たり前のように看破される。くっ、強がることすら無理なサイドエフェクトが憎い…!

「はいはい、ありませんよーだ。空閑くんは?」
「おれもないよ」
「そうなんだ。好きな子とかはいたの?」
「うーん、あんまそういうことは考えたことなかったな。リンは好きなやつがいたのか?」
「昔はね。今はいないよ」
「へぇ」

そりゃあ私も年頃だし人並みに格好良い人に憧れを持ったことはあった。まあ無難に中学の頃一番モテてた生徒会長になんか憧れを抱いて仲は良くなったものの仲が良くなりすぎてその生徒会長の恋愛相談に乗ることになって、挙句の果てには恋を成熟させてしまったなんて苦い記憶があるのだけど。

そんな苦い記憶を思い出しているとスマホが振動するのに気付いて足を止める。柚宇ちゃんからだ。今日は本部に泊まり込みでゲームをするとのことで柚宇ちゃんらしくて頬が緩んでしまう。

「え」

そんなちょっとした油断。
本当に少し目を離した隙に目の前で大袈裟なほど大きな音が響いた。事故だ。車と人が接触してその人は転がるように地面に叩きつけられて──

「空閑くん!!」

車に跳ね飛ばされた人はさっきまで私と話していた空閑くんで。私はパニックになるのをなんとか堪えて空閑くんの元へと駆けつけるのだった。



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