いちばん | ナノ

本音で話そう


村上くんも影浦くんも「空閑くんを貸して」という私の訳の分からない要求を快く受け入れてくれた。いや、快く受け入れてくれたのは村上くんだけで影浦くんは「なんだ、告白か?」なんて的外れもいいようなことを言ってた気がするけど構ってる暇がなかった私は影浦くんになんて返事をしたっけ。というか返事したっけ?…後で影浦くんにも謝りに行こう。

「どうも、貸し出された空閑です」
「……うっ、やっぱり空閑くんってちょっと意地悪…」
「ははっ、すまん。…というかこの前もおれ余計なことを言ったよな。あれも──」
「まってまって!」
「むぐっ」

まさかの言葉を口にしようとする空閑くんの口を思わず両手で押さえる。いやいやそれは駄目だろう。わざわざ呼び出しておいて自分の要件を伝えないなんて事あっていいはずがない。空閑くんの口から手を離してふぅ、と大きく息を吐き出して空閑くんの目を真っ直ぐと見る。

「空閑くん、この前はごめんなさい。もう、完璧に八つ当たりでした」
「ふむ…?」
「空閑くんに言われたことが…その、……図星というか……痛いところを突かれたというか…だからムキになっちゃったの…本当にごめんなさい……」

いちばんになりたい。
それは私がいつからか見て見ぬふりをしていたことで、どうせいちばんになれないのなら先に逃げるという悪癖も生み出していた。結果としてチームに足りないものや防衛に足りないスキルを補えるようになったのは不幸中の幸いというか、むしろ役立つことも増えていたことも確かで。皆には「色んなことが出来るやつ」って思われるように振る舞ってた。
だからこそハッキリと図星を突かれて頭に血が昇ってしまった上での八つ当たりだったのである。……申し訳ない。

「おれは全然気にしてないよ。むしろあんな顔をさせて申し訳なかったなって思ってたくらいだし」
「あんな顔?」
「泣きそうな顔してたぞ、リン」
「なっ、別に泣きそうでは…」

またしても反射的に否定しようとすると空閑くんが「あの目」をする。こっちの本音を見抜いているようなあの目を。

「…参考までに聞きたいんだけど、空閑くんって心理学とか学んでる?」
「しんりがく?」
「うん。だってすぐに本音を見抜いてくるから。…そんなに隠すの下手なつもりはなかったんだけどな」

取り繕うのも苦手ではなかった私は空閑くんに尽くウソを見抜かれるのが正直悔しい。きっと空閑くんは人の観察が他の人に比べて抜群に上手いんだろう。

「ああ。おれ、人のウソが分かるんだよ」
「?」
「そういうサイドエフェクトなんだ。だからリンのウソはまあ、全部筒抜けでした」

………サイドエフェクト?

「え!ずるい!えー!!反則だ!」
「おれにはウソをついても無駄ってことが解ったか?」
「そっかぁ……そうなんだ…」

空閑くんにウソは通用しない。
つまり空閑くんの前ではありのままで良いってことか。

「はーーーっ」
「リン ?」

思わず顔を覆っててしまう。
私は昔から器用だった。大抵のことは出来たから人に頼られることはあっても頼ることはあまりなかった。出来るということは無駄にプライドも増長してしまい弱みを見せたくなくなる。だから弱みが露見する前に逃げたり別の選択をしたりと自分の心を守るために色々やってきたのだ。
だけど空閑くんにはウソが通用しない。サイドエフェクトということは私が取り繕っていることなんてすぐに見抜いてしまうのだから取り繕うだけ無駄ということだ。
自分の中でそう結論付けて顔を覆うのをやめて再び空閑くんに向き直ることにした。

「じゃあもう空閑くんに変なウソはつかないでおこー」
「そうしてもらえると助かります」
「でも本音で話せるってちょっといいね」
「リンは今までずっと本音を隠してたのか?」
「まさか。私もウソはあまり好きじゃないから意図的にはそんなにつかないけど…言いたくないこととかは濁してたかな」

それこそ空閑くんのように「なんで攻撃手をやめるんだ?」と聞かれたことはよくあった。その度に私は「だっていちばんになれないし」という本音に蓋をして射手もやってみたいからと濁していたのだ。でも空閑くん相手だとこれも看破されてしまうのだろう。

「あ、でも。別に諦めてるわけじゃないんだよ」
「というと?」
「いつか、生きてるうちになにかでいちばんを取ってやるって思ってるの。だから色々試したりもしてるんだよ」

色んなことが出来るようになれば選択肢の幅も広がる。有難いことに私はトリオン量もかなり多く器用なほうだからボーダーとしてのノウハウを詰め込むだけ詰め込むのもありかもしれない。まあ上には上、それこそパーフェクトオールラウンダーとかいう化け物も既に存在しているのでボーダーでいちばんになるという夢は叶わぬ夢かもしれないけど。

「それに努力も嫌いじゃないの。一度やるって決めたことはやり切らないと気が済まないし」
「確かに攻撃手も射手もマスタークラスにしてたもんな」
「そうそう。中途半端には中途半端の意地があるんです」

敵わないと逃げる癖はあるけれどせめて人並みに使えるようになるまでは決して諦めない。なんというか、私はきっと物凄く負けず嫌いなんだろうな…と苦笑いしてしまうほどだ。

「なるほど。おれ、リンはよくウソつく変なやつなのかと思ってたけど全然違ったな」
「うぐっ、印象悪くてごめんなさい……」
「いや。むしろ今は好きだぞ」
「あ、ほんと?それなら良かった…じゃあ、仲直りしてくれる?」

そう言って手を差し出すと空閑くんは優しく微笑んでその手を握ってくれる。

「というか、おれたち喧嘩してたっけ?」
「あれ。そういえば私が勝手に逆ギレしてただけだったかも…!?」

仲直りとか図々しくない?ひたすらごめんなさいが妥当ではないだろうか!?そんな私の百面相を見て空閑くんは「ふはっ」と楽しそうな笑い声を上げてくれるのだった。

「では改めまして。これからよろしくなリン」
「…うん!よろしく空閑くん」



back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -