評判のあいつ
しゅんとのランク戦を終えてジュースでも飲みに行こうとラウンジに移動するとよーすけ先輩とときえだ先輩と合流した。二人も丁度休憩だったらしくおれ達の戦績はどうだとか入隊希望の人が増えているとかそんな話で盛り上がっているとしゅんが「あっ」と言って誰かを見つけたのか駆け寄っていく。迅さんだろうかと目で追っていくとそこには
「あ」
前におれとランク戦をしたリンの姿があった。しゅんは自販機と睨めっこしているリンを後ろから驚かせて、それに驚いたリンは既に買っていたジュースを落としてしまう。ふむ、ここから見ていても良い反応でしゅんが揶揄いたくなるのも分からなくはない。
「白チビはリンのこと知ってるのか?」
「うん。この前ランク戦で戦ったよ」
「リンとランク戦?珍しいね。最近は誰ともやってなかったから」
「ふむ。確かに迅さんとたちかわさんに押されてって感じだったな」
あー、とよーすけ先輩とときえだ先輩は納得したように相槌を打つ。確かにリンはランク戦をすることにあまり気が進んでなかったように見えた。でも実力は相当なもので以前は攻撃手でしゅんが勝てなかったほどだったと言う。
「リンはなんで攻撃手から射手に転向したんだ?」
「太刀川さんにボコボコにされたからだろうな」
「リンは攻撃手としてかなり強かったんだよ。でも太刀川さんがいるならってことで次は射手に転向したんだけど」
「そこにまた出水が現れたってわけ」
どの世界にも強いやつっていうのは存在する。上には上がいるなんて当然のことだ。リンはその上にぶつかる度に何故か道を変えてしまうというわけか。
「リンは不器用なのか?」
「不器用?まさか。アイツは超器用で凄いやつだぜ」
「ふむ?」
「マスタークラスになんて早々になれるものじゃないんだよ。それをリンは短期間で攻撃手、射手の両方を会得してるんだ」
手の甲に映し出される点数を見て確かに、と頷く。この数字が8000点以上であることがマスタークラスである証明でリンは攻撃手、射手ともにそのレベルに達しているという。それにあの日の戦いでも読みにくい攻撃が多くてかなり戦いにくかった。今まで戦った誰よりも攻撃手っぽくもなければ射手って感じでもなかったし。
「あいつはその時の自分に合った役割を見つけるのが上手いんだよなー」
「そうだね。リンは常に自分の効率の良い使い方を考えているからチーム戦では誰よりも厄介な相手になるんだよ」
「あいつそろそろまた転向すると思うぜ。チームには出水がいるからな」
「そんなに転向して上手くいくものなのか?」
「それがいくんだよなぁ。あいつは自分の仕事は確実にこなすし、太刀川隊は全員厄介だからリンにばかり構ってもいられないし」
「頭も良いから囮も上手いよ」
A級一位の隊員とはやっぱり一味違うらしい。同じA級できっと何度もたちかわさん達と戦ったことのある二人が苦笑いを浮かべながら語るということは勝率は悪いのだろう。圧倒的な実力者が二人にサポートの鬼のリンか。相手にしたらまず間違いなくリンが一番厄介そうなのは身をもって知っている。うちで言えばオサムのような役割のマスタークラスがいるってことだからな。
「でもまあ、味方としてはこの上なく頼りになるぜリンは」
「足りないものを大体は補ってくれるからね」
「なるほど。そりゃ頼もしいですな」
「なになに、リンちゃんの話?」
いつの間にか戻ってきたしゅんがおれ達の会話に合流する。さっきまで自販機の前にいたリンの姿はなく飲み物だけ買いに来て帰ってしまったのだろう。おれも話しかけに行けば良かったかな。
「しゅんはリンと仲が良いのか?」
「え?どうだろう。リンちゃんって基本誰とでも仲良くなるから普通くらいじゃない?」
「ちょっと壁があるよな、リンって」
「世の中はそういう人のほうが多いでしょ」
「でもリンちゃん滅多なことでは怒らないし、反応も良いから構いたくなるんだよねー」
大抵のことは許してくれるよ、としゅんは楽しそうに笑う。そういえばたちかわさんと迅さんにほぼ無理矢理のようにおれとのランク戦を強要されたけど確かに怒ってはなかったな。三人の反応を見る感じだいぶ慕われているようだし良いやつなんだろう。
「ふむ…」
斎藤リン。
おれはほとんどリンのことは知らないけど今度見かけたらちょっと話してみたいなと思うくらいには興味深い存在となっていた。