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器用貧乏


私は昔から器用だった。
大抵のことは出来たし頭の回転も早い。成績だって上から数えた方が早かった。そう。上から数えたほうが、ね。世の中には私みたいな人は案外沢山居ると思う。なんでも卒なくこなすねって。クラスに一人はいると便利だねって。クラスにいないと困るよとも言われず、一番上になることもなくて。なんともまあ中途半端な存在であることも頭の悪くない私には理解出来ていたしこれが私なんだって受け入れてもいる。どうせ大抵のことが出来るのならその場で一番自分を効率的に使える役割を考えてそれが上手くいくのが堪らなく好きだったり。

まあ結局。
一番を狙うとかよりも自分のしたいことを卒なくこなすのが楽で楽しいという結論に至ったわけですよ。

「いや太刀川さん遅くない?」
「30分経っちゃったねぇ」

そんな私が所属しているのはA級一位の太刀川隊である。一番取れてるじゃん、って思うよね?確かに取れてるし私達のチームは文句なしに滅茶苦茶強いですよ。どれくらい強いかというと、マスタークラスまでせっせと上げた私の攻撃手としてのプライドを一刀両断した太刀川さんが隊長で。
いや、この人がいる限り攻撃手はしんどいと思ってせっせとマスタークラスまで上げた射手の腕は後からうちの隊に入ってきた同い年の出水くんがあっという間に抜き去ったくらいにはメンバーが強すぎる。しかもトリオン量がちょっとした自慢だった私のトリオンキューブよりも出水くんのトリオンキューブのほうが普通に大きかった時は「あ、はい。ですよねー」なんて妙に納得もしてしまうし。とは言っても元々トリオン量も二宮さんとかのほうが多くて一番ではなかったし噂ではモンスター級のトリオン量を持ってる新人が現れたとかなんとか。

いつも通り上から数えれるくらいの位置にいる自分に腕組みで頷いてしまう。オペレーターの柚宇ちゃんなんて文句なしの凄腕でいつも速い、的確、頼りになるとうちの隊の自慢のオペである。しかも可愛いし胸まで大きいとかチートか?唯我くんはお金持ちなのにそれを変に鼻にかけないし素直だし結構な扱いをされても全然めげないしで見ていて正直癒される。うちのマスコット的存在…と本人に言うと調子に乗るから言わないけど私は彼のことを気に入っている。

「あー迅さんとランク戦やるって言ってたから長引いてるのかもな。唯我、おまえちょっと行ってこい」
「ボクがですか!?」
「いいよ。私が行ってくる」
「さすがリン!行ってきたまえ…あいだだだっ!」

いつもの調子で戯れている出水くんと唯我くんをこれまたいつも通りスルーして柚宇ちゃんに手を振ってランク戦室に向かうことした。
結構憧れてるC級隊員も多いA級一位の私達はこんな感じで凄い人達の集まりだ。そんな中に混じっていいものかな、と思うこともなくはないけどあの超可愛い柚宇ちゃんに誘われたという自慢があるので足を引っ張らないように日々研究中なのである。

ランク戦室に着くと出水くんの言っていた通り太刀川さんと迅さんの姿があり、その周りを見覚えのある隊員達が囲んでいる。盛り上がっているところ申し訳ないけれど皆が待っているので太刀川さんには戻ってきてもらおう。

「太刀川さん」
「お、なんだリン。おまえもランク戦やりに来たのか?」
「ちがいます。今日は14時からミーティングですよ。皆太刀川さんのこと待ってますけど」
「………あ」

忘れてたわ!と笑いながら太刀川さんは悪気もなく言い放つ。まあ急ぎでもないから別に良いけどこれは多分また柚宇ちゃんに奢る羽目になるだろうな。

「リンちゃんおれと一戦やろうよ」
「えー。緑川くん多分もう私より強いからいや」
「多分じゃなくて絶対強いって!」
「生意気ー!」

緑川くんとは私が攻撃手から射手に転向する前によく戦っていたけれどあの頃はまだ緑川くんはマスタークラスではなかったため流石に私のほうが腕は上だった。だけどほら、攻撃手から射手に転向してからは全然スコーピオンとか使ってなかったし今の緑川くんに勝つのは無理だろう。ポイントを取られて終わりだ。それに今は射手からも転向しようとしているのだから…そう考えると私って本当に中途半端だなと少し自嘲してしまう。

「ふぅん、リンちゃん。良かったら遊真と手合わせしてみない?」
「ゆうま?」
「どうも。空閑遊真です」
「あ、どうも。斎藤リンです」

迅さんに聞きなれない名前を出されて思わず聞き返してしまったがその名字には聞き覚えがあった。空閑くん。まあ彼についてはA級一位である私達の隊は詳細を聞かされていた。うちの隊に珍しく結構遊びに来る三雲くんの隊の一人だし凄腕との噂も聞いている。いや、迅さん?

「いやいや、空閑くんって強いんですよね?私じゃ相手にならないですよ」
「遊真は確かに強いけど戦ってみて損はしないと思うよ」
「へぇ?なにか見えたのか」
「さあ、どうかな」
「おれは別にいいけど」

え、なにこの流れ。いや私戦うって言ってないんですけど…!?

「まってまって。太刀川さん、今の私のトリガー知ってますよね?完璧に個人戦向きじゃないんですけど」
「じゃあスコーピオン縛りでやったら良いんじゃないか?」
「おれも遊真先輩と初めて戦った時はスコーピオン一本だったなぁ」
「…ちなみに緑川くんが勝ったの?」
「8-2で遊真先輩の勝ち!」
「は!?つよ!」

最近の緑川くんに、マスタークラスに上がってA級でも暴れ回ってる緑川くんに8-2。しかもスコーピオン縛りでって私が挑むにはあまりにも無謀だと思うので何とかこの場を切り抜けようと考えていると太刀川さんに背中をバシっと叩かれる。あ、イヤな予感。

「よし、隊長命令だ。いってこいリン」

ほらね!この人こうやって隊長特権使うからほんともうね!

「遊真もスコーピオンだけでいいか?」
「いいよ。でもリンはいいのか?」
「……うぐ、お手柔らかにお願いします」

どうしてこんなことに…という気持ちは拭えないけれど空閑くんには罪はないしこのS級意見通し男の太刀川さんと迅さんが乗り気な時点で詰んでいたのだろう。5点先取、スコーピオン縛りという内容で繰り広げられた私と空閑くんの戦いは5-1という結果に終わり予想通りの大負けでポイントもごっそり持っていかれましたと。空閑くん、実際に戦ってみると信じられないくらい強くて流石というかなんというか。いずれA級に上がってくるんだろうなという確信があるけど私と戦った意味はなくないか…?

「…空閑くん強いね。ありがとうございました」
「でもリン、ちゃんと戦いにくかったぞ」
「あ、ほんと?」

それは素直に嬉しい。戦いにくいということは転向しようとしている方面も上手くいきそうだしこれだけ実力のある空閑くんにそう言ってもらえるなら少し自信もつくってものだ。

「確かに攻撃手の戦い方って感じじゃなかったね。かと言って最近のリンちゃんの射手の動きでもなかったし」
「日々研究中だからね…って待って時間!?うわっ、ちょ、メッセージきてるし…!太刀川さん戻りますよ!」

私はその場にいた皆に頭を下げて太刀川さんと共に隊室へと急ぐことにした。そういえば迅さんはなんで私と空閑くんと戦わせようとしたのだろう。いつか空閑くんがA級に上がるから覚悟しとけよってこと?…うわぁそれはありそうだな。続々と現れる優秀な新人にせめて自分の仕事は出来るようにしなきゃなと深めの溜息をつくのだった。



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