いちばん | ナノ

怖くて仕方がない


今夜は防衛任務だ。おれは夜に備えてリンが作ってくれた弁当箱を取り出し蓋を開けてみるとおれが好きだと言ったものばかりが入っていて頬が緩んでしまう。いただきます、と手を合わせておかずを口へと運ぶ。うん、うまい。

「空閑、ここにいたのか。…って、食事中だったんだな。後にするよ」
「いや、構わんぞ。どうしたオサム」

おれが引き止めるとオサムはじゃあ、と言っておれに近寄って座っているおれに目線を合わせるように膝をついた。オサムが確認したかったのは今日の防衛任務について少し場所に変更があったかららしく、確認はすぐに終わりオサムは立ち上がって無言でおれの弁当を見つめてきた。

「オサムでもリンの弁当はあげないぞ?」
「いや、それは構わないけど…。空閑、斎藤さんとは上手くいってるのか?」
「? 仲は良いと思うけど」
「うん、それは分かってる。…空閑にウソをついても仕方がないからハッキリ聞くけど、空閑は斎藤さんのことが好き…なんだよな?」
「好きだよ」

おれが即答でそう返すとオサムは困ったように笑みを浮かべる。珍しいな。しゅんやよねや先輩とかそこら辺の人達はよくおれにこういった話題を振ってくる。その度にちゃんと好きだし手を出すなと牽制をしているのだけどオサムからこういった話をされるのはこれが初めてだった。

「でもなんで?オサムがこういう話するの珍しいじゃん」
「うーん…実は」

オサムから聞かされたのはあまり…いや、かなり面白くない話で。おれでもリンでもなくおれの隊長であるオサムに「リンは空閑と付き合っているのか」と尋ねてきた隊員がいたらしい。付き合ってはいないと思うと言えばリンを紹介しろと迫られオサムはおれがリンを好きだとなんとなく察していたため断ってくれたとのこと。流石おれの隊長だ。

「でももし空閑が斎藤さんのことを好きじゃなかったら余計なことをしたかと思って」
「いや、助かったぞオサム。ところでその隊員って誰だ?」
「…空閑、顔が怖い。ぼくも今日初めて話した人だから空閑も知らないと思うぞ」
「ふむ…」

おれは確かに気持ちは伝えていないけれど隠しているつもりもない。第一好きでもない異性にあれだけ触ったり抱きついたりするのはアウトだろう。…それを許しているリンは本当に心配になるけど…おれ相手だから許してると信じよう。リンは昔から自分に対して自信がない。きっと自分が誰かから好意を寄せられるなんて思ってないんだ。おれも、その隊員も。この抱いてる想いを察してもらえることはないんだろうな。でもおれは……

「…告白とか、しないのか?」
「む、攻めてきますなオサム」
「いやだって…空閑と斎藤さんはぼくから見てもお似合いだと思うから」

オサムのウソ偽りのない言葉に嬉しくなってしまう。それと同時に突き付けられる自分の格好悪さに嫌気が刺す。

「空閑?」
「ん、ああスマン。…そうだな。言えたら良いんだけどな…」

おれは3年前からリンのことが好きだ。頑固なところも、頭はいいくせにちょっと抜けてるところも、お人好しなところも全部好きだ。元の体に戻れた時、最初の頃は痛かったり苦しかったりして大分辛かったけど毎日リンが来てくれることが心の支えだった。そんなリンを繋ぎ止めたくてリンの優しさにつけ込んで一緒に住むことになって。今は毎日信じられないくらい幸せだ。だからこそおれはそこから抜け出せずにいる。

「…オサムは呆れるかもしれんけど」

おれの言葉にオサムは真剣な表情で続きを待ってくれている。オサムはいつだって正直で真っ直ぐで。そんなオサムにだからこそおれは本音を漏らすことにした。

「怖いんだ。この時間が終わるかもしれないのが」
「終わる…?どうして」
「…もし、もしおれがリンにこの気持ちを伝えて断られたらリンはもうおれの元へは帰ってきてくれない。…あいつは頑固だからな」

今だって無理矢理引き止めているようなものなのにリンのことが好きだとバラせばリンはどんな反応をするだろう。もし同じ気持ちなら最高だ。嫌われているとは思わない。だけど…もしリンにとっておれは「友達」でしかないのならおれの気持ちを知ったリンはおれから身を引くだろう。友達のままでいいからと縋ったとしてもリンはおれの元を去る。…あいつはそういう奴だ。

「それくらいなら今の状態でも一緒にいられる方がおれは幸せなんだ。リンと離れたくない。離れるなんて考えたくもないから」
「…空閑は本当に斎藤さんが好きなんだな」
「うん。本気で好きだ」

本気で好きだからこそどうしても踏み出せない。気持ちを伝えたことを後悔しそうで怖いんだ。伝えなければリンは今でもおれの側に
いてくれたんだろうかって後悔するのが怖い。失ってしまうくらいなら今のままで良いと思うくせに、ずっとこのままでいられる補償なんてどこにもないのも怖い。ああ、リンのことになるとおれは本当に臆病で格好悪いな。

「空閑。ぼくはまだ空閑みたいに誰かを本気で好きになったことがないから分からないけれど…」

オサムは真剣な顔をしている。自分のことじゃないくせに自分のことのように悩んでしまうオサムは本当に面倒見の鬼だな。

「後悔だけはしないでほしい。ぼくは…空閑には笑っていてほしいから」
「…うん。ありがとな、オサム」

オサムの言葉にはおれへの優しさしかない。心配をかけてしまったなら申し訳ない。その優しさに頬を緩ませてお礼を言えばオサムはほっとしたような表情を浮かべてまた後で、と言葉を残してこの場を去った。


後悔をしないように、か。
それは伝えてしまった後悔なのか、伝えなかった後悔なのか。おれにはまだ答えは出せなかった。



back

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -