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2年後の今


朝日が心地良い。昨日は雨が降っていたけれど今日は快晴で気持ちが良いくらいだ。いつものようにテレビを小さめの音で付けてキッチンへ移動する。今週の朝ごはんは和食だと決めているのでそれ相応の用意をして、夜に備えてお弁当も用意する。
二人分の食事が出来上がりテーブルへと並べ、時間を見ると起きると言っていた時間より少し過ぎているけれどいつものことである。寝室へと移動すると幸せそうに眠る彼とその彼に寄り添う自律トリオン兵の姿が目に入った。

『おはよう、リン』
「おはようレプリカ」

自律トリオン兵であるレプリカに挨拶をしていつも通り朝一のバイタルチェックを済ます。良好なその状態に満足気に頷いて私は幸せそうに眠るその体を揺することにした。

「くがくーん、朝だよー!」
「んー……」

体がトリオン体の頃には眠ることが必要なかった空閑くんは元の体を取り戻してから暫くの間は眠ることが苦手だった。何年も襲ってこなかった睡魔に襲われるのが怖いとか嫌な夢を見る、なんて言ってたなぁ。空閑くんが眠ることに慣れるまでは空閑くんが眠りにつくまで話したりしたものだ。今となっては眠ることにもすっかり慣れて、むしろ慣れすぎて毎朝このように寝坊をしてるんだけど。

「ご飯冷めちゃうよ」
「むむ、それはいかん…」

むくり、と欠伸をしながら起き上がった空閑くんは完全に私よりも大きく成長していた。

「おはよ、リン。レプリカ」
「おはよう空閑くん」
『おはよう、ユーマ』

空閑くんが元の体に戻るためにトリオン移植手術をしてから3年。空閑くんと一緒に暮らし始めてから2年。そして空閑くんの家族同然であった自律トリオン兵であるレプリカを遠征先で探し出してから半年が経った今、私達は三人で生活をしている。



「うむ、うまい!」

空閑くんは近界よりもこっちの国の食事のほうが好きみたいで和食だったり洋食だったり、時には中華なんかも作ってみたりとこの2年間で色んなものを振る舞ったものだ。元々そんなに料理は得意ではなかったけれど空閑くんが美味しそうに食べてくれるのが嬉しくてレシピ本を片手に頑張ってみたのだけどこの時ほど器用で良かったと思ったことはなかった。
向かいに座って笑顔でご飯を食べる空閑くんはハッキリ言って可愛い。というか随分とまあ男前になったものだ。ボーダー内で空閑遊真を知らない人はあまりいないだろう。実力的にも容姿的にも。

「空閑くん、今夜は防衛任務だよね?お弁当作っておいたから夜食に食べて」
「ありがたきしあわせ…!」
『また他の隊員に羨ましがられるかもしれないな』
「誰相手でもリンの弁当はやらん」

レプリカと楽しそうに話す空閑くんに笑みが溢れてしまう。空閑くんが楽しそうにしてるのが嬉しい。やっぱりあの時諦めなくて良かったなと心の底から思う。

「リンは今日は早く帰れそうなのか?」
「うん。今日は予定では夕方には上がれるから買い物してから帰るね」
「ふむ…じゃあレプリカの本体もリンと帰したほうがいいな」
『心得た』

レプリカは今は主にエンジニアで働いてくれている。小型のものは常に空閑くんと一緒に行動をしているけれど本体は本部にいる時は雷蔵さんや鬼怒田さんの手伝いをしているようだ。エンジニアに関してはあまり詳しくないけれどレプリカの知識はかなり役に立っているようで給料まで出ている。戦闘は本体でないと出来ないらしいけど…

「いやいや大丈夫だよ。一人で帰ります」
「ダメだ。リンに何かあってからじゃ遅いからな」
「トリガーは常に持ってるよ?」
「オサムより少ないトリオン量で戦うつもりなのか?」
「三雲くんに失礼でしょ!」
「オサムはそれでも戦えるけどリンはきついだろ?」

そんな「心配してます」って全開の顔で言われると何も言えなくなってしまう。空閑くんが言った通り移植後の私のトリオン量は信じられないくらい少なくなっていた。それこそ空閑くん曰く三雲くんよりもトリオンキューブが小さいとのこと。…三雲くんって今でも前線で戦ってる空閑くんの隊の隊長なんだよね、逆に凄い。数値にして私のトリオン量は以前は11だったものが1になっていた。ちなみに私の小さなトリオンキューブを見てお腹を抱えて涙が出るまで笑った太刀川さんと出水くんには普通にむかつきました。別に良いけど!

『リンに何かあったらユーマが悲しむ。邪魔にはならないようにするので許してほしい』
「全然邪魔じゃないよ。じゃあ一緒に帰ろうかレプリカ」
『ありがとう、リン』

そんなやりとりをしながら朝食を終え、片付けを終えた後に大学へ行く用意をするのがいつもの流れだ。私は三門市立大学に通いながらボーダー隊員として活動をしている…というか私の歳くらいの隊員はほとんどがそうだろう。空閑くんは大学には興味がなかったため高校を卒業してからはボーダー活動に専念しているけど。

「じゃあ私は大学に行ってくるね」
『私もリンと行くとしよう』
「おう。また本部でな、リン。レプリカ」

今となってはレプリカ本体は空閑くんよりも私のお目付け役のような存在になってしまっているけれどこれも空閑くんが折れなかったためである。空閑くんは案外心配性で頑固だ。そしてきっと私に負い目を感じているのだろう。自分のせいで私のトリオンが減ってしまったと思っているに違いない。どれだけ私が決めたことだから気にするなと言っても空閑くんは気にしてしまうのだろう。ならせめて、空閑くんの不安が少しでも減るように彼の心配には応えるようにしている。

あと。大学の研究にレプリカはとても心強い味方なので正直護衛よりもこちらが助かってたり。

「さて、急ごっかレプリカ」
『心得た。リン』

これが今の私達の日常。
きっと今が一番楽しくて幸せで。
近い未来に訪れるであろう終わりに今日も気付かないフリをして私は大学へと急ぐのだった。



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