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玉狛支部へ


流石に深夜に連絡をするのは悪いだろうという結論に至り、私は朝まで少し眠って。…眠れない空閑くんの側で眠るのは気が引けたけど当の本人に「寝て良いぞ。というか寝ろ」と押し切られたため最終的には折れて睡眠を取ることとなった。そして目が覚めると空閑くんが目の前にいて。あれ、デジャヴ?

「……空閑くん、人の寝てるとこ見るの楽しい…?」
「これがなかなか楽しくてな。写真も撮ってみました」
「は!?消して消して!」

やたら上機嫌な空閑くんから結局スマホを奪うことは出来ず。いやいやそんなこと言って本当は撮ってないんでしょ?と聞けば空閑くんのスマホにはバッチリ私の寝ている姿が撮られていた。新手の嫌がらせかな?

「そういえばオサムに聞いてみたぞ。くろーにんさん、昼過ぎには玉狛にいるみたいだ」
「! ありがとう空閑くん!」

クローニンさんに意見を聞けるのはかなり大きい。彼とは何回か話したことがあるけれど近界の知識が豊富だったから。この技術について知っているかは分からないけど聞いてみる価値はあるだろう。
私の嬉しい気持ちとは裏腹になんか空閑くんが変な顔してる。

「空閑くん。なにその顔」
「おれ、今日の昼はしゅんと約束が入ってる…」

いやだからなんでそんな眉間に皺を寄せた変な顔をしてるのか…?



「よっ。昨日はなんか面白いことでもあったか?」
「出水くん。特になかったよ」
「リンの寝顔はゲットしたけどな」
「あーー!ちょ、消してとあれほど…!」

昼前になり出水くんが作戦室にやってきて開口一番そんなことを言うし、空閑くんは何故かドヤ顔で人の寝顔を見せようとするし。…まあ空閑くんと出水くんが仲良くなってそうなのは良いことだけど。

「さて。じゃあおれはそろそろしゅんとの約束に行くな」
「はーい、いってらっしゃーい」
「リン、今日はちゃんとスマホを見るんだぞ」
「はいはい。りょうかい」

私の返事にうむ、と満足そうに頷いて空閑くんは作戦室を後にした。さてと。私もそろそろ玉狛に向かう準備をしますか。………。

「いや、なに出水くん」
「えー?いや、良い感じだなって思って?」
「はぁ。前も言ったけど空閑くんとは友達だからね」

全く。何回言っても揶揄ってくるんだから。私のいつも通りの返答に出水くんはふーん。とやっぱりニヤケ面をしている。

「友達ねぇ。おれ、空閑のあんな顔初めて見たけど」

出水くんの言葉に内心「確かに」と思ってしまった。昨日から空閑くんは結構珍しい表情を見せてくれるようになった気がする。それこそ初めて見る表情も結構あったし。

「確かに。前より仲良くなったかも?」
「え、マジでただの友達なの?」
「いや、マジでただの友達だよ」

全く、と出水くんから視線を切ってクローニンさんのところに持っていく資料を纏める。医療関係のものもいるだろうか。うーん、持って行った方が安心かもしれない。案外多くなりそうな荷物にはぁ、と溜息を吐いているといつの間にか真後ろに出水くんが立っていて──

「うわぁ!なに!?」
「ほら。普通ならこの距離だとそういう反応になるんだよ」
「はい…?」
「ま、これ以上は野暮か。おまえ、一つのことに集中してる時は他はあんま見えないもんな」

出水くんの意図は分からなかったけど言ってることはその通りで。正直今はこの件以外のことはあまり考えたくないのが本音だ。それを察してくれた出水くんはそれ以上は何も追求してこなかったのでとても有難い。よし、こんなもので良いだろう。まとめた資料を鞄に入れて出水くんに挨拶をして部屋を出ようとすると丁度太刀川さんと柚宇ちゃんに出くわした。

「お、リン。どこ行くんだ?」
「太刀川さん。ちょっと玉狛のエンジニアに知恵を借りようと思いまして」
「ああー、近界民の?やっぱりリンちゃんが調べてるのはくがくんのことだったんだねぇ」
「いやまあ、そうなんだけど…でも私が勝手にやってることだから空閑くんは関係ないよ」

じゃあ行ってきまーす!と手を振ってその場を後にする。どうかクローニンさんがこの件について何か知っていますように。そう願って玉狛に向かうことしか出来なかった。


「うぅー、くがくんにリンちゃん取られそうだなぁ」
「引き抜きか?リンの意思なら文句はないけど空閑が欲しがってるだけならやらんぞ俺は」
「いやーリンはまだ無自覚っぽいな。おれが空閑の立場ならそりゃ拗ねるわ」


うちのチームメイトがそんな話をしていたことを私は知らなかった。



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