今までだって気にしてないわけではなかった。まあ確かにね。人よりはないなーなんて思いながらも大きめな服を着ればなんとかなったし狙撃手の私はバックワームを着用してる時が多いからさぁ。だから今回の閉鎖環境試験はまあ、なかなか体にフィットするTシャツを着るのはなかなか思うところはあったけれど着心地も良いし衣服自体に不満はない。

「晩飯はあたしがやっから」

エプロンを身に付けながらそう言ったのは今回の試験でチームメイトとしてお世話になるオペレーターのののさんだ。ののさんは竹を割ったような性格だし話していて気負いもしなくて大好きだ。大好きなんですよ。ただどうしてもその羨ま……っんん、凄まじすぎる胸に目がいってしまうわけで。ののさんの素晴らしい胸を目にした後に自分の胸を見るとなるほどこれが絶壁というのかと一周回って笑顔になってしまう。はぁ、と小さく溜息をついて持ち込みで待ってきたクッションを抱えて現実から目を逸らすのだった。


「おはよ、リンちゃん」
「おはよう犬飼くん」

ののさんは朝が弱いため今朝は私と犬飼くんで朝食を作ることとなった。予め決めておいた食材を用意して切り分けて、と。犬飼くんは手際が良くてこの調子なら他のみんなが起きる頃には朝食は出来上がるだろう。

「そういえばリンちゃん。藤丸さんのことよく見てたけど何か気になることでもあったの?」
「え!?」

犬飼くんの言葉に驚いてざくっ、と指を切ってしまう。幸いにもトリオン体であったため少しのトリオン漏れで済んだものの全く動揺を隠しきれていない私を見て犬飼くんはそれはもう楽しそうに笑顔を向けている。

「あはは、大丈夫?」
「いや、大丈夫だけど…私、ののさんのこと見てた?」
「え?うん。バレバレだったよ。もし同じことを俺がしたら殴られても文句は言えないかな」

犬飼くんの言葉に私がののさん…というかののさんの胸を見ていたことすらバレていたようだ。やば、なんという恥ずかしさ。そして犬飼くんは楽しそうに首を傾げた後、私がやっていたことと同じように私の胸元へと目線を移す。なるほど、めっちゃ分かりますね。

「……反省します」
「ま、ほどほどにね。そんなに気にすることでもないんじゃない?」

おっと。
これはもしかして慰められているのだろうか。
まあそこまでは気にしてませんよ。だけどののさんレベルを目の当たりにすると神様は不公平だなぁと思わずにはいられないというか。持たざるものの葛藤というものは突然湧いて出るものなのです。

「やっぱり犬飼くんもおっきいほうが好き?」
「え?そういうこと聞くんだ」

珍しく犬飼くんがちょっと動揺したような声を出す。確かに同性同士ならまだしも異性からこんな話題を振られることは少ないのかもしれない。この試験中に気まずくなるのは流石にまずいので早めに話を切り上げてしまおうと私は言葉を続けた。

「ま、人それぞれか。犬飼くん、そっちのお皿取ってくれる?」
「はーい」

上手く話を切り上げられたようで内心ほっとする。犬飼くんの声色もいつも通りに戻ったし、今日からののさんの胸に注目するのは気をつけようと心に誓った。
犬飼くんが差し出してきたお皿を受け取ろうと手を添えると何故か犬飼くんがそのお皿を離してくれない。え、なに。お皿から目線を上げて犬飼くんの顔を見ると犬飼くんは笑顔を浮かべていて。

「犬飼くん?離していいよ」
「おれは今はちいさいほうが好きかなー」
「え?」
「好きな子がタイプって言うよね」

数秒の間の後、パリンッという音が響いた。渡されたお皿を私が落として割ってしまったからだ。割れたお皿を拾い集めてる間ずっと顔が熱くて、そんな私を見て一緒に片付けを手伝ってくれた犬飼くんは満足そうに笑うのだった。





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