閉鎖環境試験の1日目が終わった。いやもう、一言で疲れた。別に簡単な試験だと舐めていた訳ではないけどまさかあんなに課題があるとは思わないじゃん。トリオン体でずっと作業をしていたのに肩が凝った気がするし目も疲れたなぁ。唯一の救いは今回の試験にあたってシャッフルされたメンバーに不満がないことかな。よくぞ私を取ってくれました諏訪さん。

「あー疲れた。明日も課題とかやってらんない」

そう言って隣のベッドにダイブしたのは香取葉子ちゃんだ。寝室はツインの部屋が二部屋あって男女で分けて使うことになった。ただしカプセルベッドに私か葉子ちゃんのどちらかが入る日は私達が指名した相手とツイン部屋を使うことになっているけど。

「葉子ちゃんは私がカプセルの日誰を指名する?」
「えー…消去法で隠岐先輩しかいなくない?」
「そうなの?三雲くんと仲良さそうなのに」
「はぁ?ありえないんだけど」

葉子ちゃんが苛立った声を出す。けれどあまり覇気はない。流石の葉子ちゃんも今日は疲れたみたいだ。いつもとは違うメンバーに閉ざされた環境での作業。心身ともに疲弊するには十分環境は整っている。寝るまでの時間、なんか気持ちが和らぐ会話でもしたいな。

「リンは?誰を指名するのよ」
「え?うーんそうだなぁ…」

諏訪さんは一番ないかな。諏訪さんが嫌とかでは全くなくて、他の二人に比べて大人すぎて緊張してしまうから。年上の男の人ってだけでも二人きりになるのは気を使うし気を使わせそうな気がする。三雲くんは一つ歳下だし葉子ちゃんに無茶振りをされても全く動じないかなり出来た子だ。指名したら真面目な性格だから気を使わせてしまうかもしれない。となると──

「私も隠岐先輩かなぁ」
「でしょ?まあ隠岐先輩がいいってわけでもないけど…」

はぁ、と葉子ちゃんが大きなため息をつく。確かに男女でこれだけ近い距離で眠るのは大分親しくない限りちょっと気疲れしそうだ。ただでさえ疲労が溜まりそうな試験なのに先が思いやられる。もし隠岐先輩を指名したら今葉子ちゃんがいる場所に隠岐先輩がいることになるのか。あれ、そういえば隠岐先輩って。

「隠岐先輩って烏丸くんにちょっと似てない?」

髪を下ろした隠岐先輩を見た時に誰かに似てるなーと思ったのだけどそうだ。烏丸くんだ。烏丸くんは玉狛支部の人だから最近はあまり見かけないけど似てると思うんだよなぁ。なんて。軽い気持ちで口にしたのだけど。

「はぁ!?全然似てないし!」
「え、そう?」
「烏丸くんは超格好いいし強いしめっちゃ格好良いし!!」

確かに烏丸くんは格好良いけどまさかの大絶賛である。烏丸くんがボーダー内の女子から凄まじい人気を誇っているのは知っていたけど、そういえば葉子ちゃんも烏丸ガールズの一人だったっけ。罪深い男ですこと。

「ちゃんと明日隠岐先輩のことよく見なさいよ!全然違うから!」
「りょ、りょうかい」


そんな場違いとも取れる会話を昨夜した訳でして。葉子ちゃんに言われた通り今日は時間が許す限り隠岐先輩のことを盗み見してみた。流石に課題やシュミレーション中は無理だったけれど、観察してみればみるほど隠岐先輩はまあ、やっぱり少し烏丸くんに似てる気もするけど烏丸くんよりは雰囲気が柔らかいというか緩い気がする。親しみやすいって感じかな。

二日目もなんとか乗り切って夕食を食べ終え片付けを申し出ると隠岐先輩も手伝うと名乗り出てくれた。おお、優しい。モテそうだな。というのが素直な感想だ。

「斎藤ちゃん、今日ずっと俺のこと見てた?」

と。流石に見過ぎだったのか隠岐先輩本人にもバレていたらしい。不快な思いをさせてしまっただろうか。ただでさえこの閉鎖環境試験はストレスが溜まりやすそうな環境だというのに私のせいで無用なストレスをかけてしまっていたのなら申し訳ない。

「あ、ごめんなさい。見てました…」
「別にええけど、何かあったん?」

全く気にしてない様子で柔らかい笑みを浮かべて隠岐先輩が尋ねてくる。不覚にも少しドキッとしてしまった。隠岐先輩モテそうだなほんとに…

「えっと。隠岐先輩ってちょっと烏丸くんに似てるなって思って」
「俺が?それは光栄やな」
「光栄?」
「だって烏丸くんてよくかっこええって言われとるやろ?斎藤ちゃんはおれもかっこええって思ってくれたん?」
「あっ」

隠岐先輩の指摘に咄嗟に返事が出来なかった。
確かに私は烏丸さんを格好良いと思っている。葉子ちゃんや烏丸ガールズみたいに熱烈ではないけど一個人としてイケメンだと認識はしていた。それはつまり。似てるなと思っていた隠岐先輩のことも無意識に格好良いと思っていたってことで。
なんだかとてつもなく恥ずかしいことを本人に暴露してしまった気がして顔が熱くなっていくのを感じる。ど、どうしよう。なんとか誤魔化さなきゃ。焦った私の頭を隠岐先輩はぽん、と優しく撫でた。

「ごめんごめん。揶揄いすぎたわ」
「え、その」
「斎藤ちゃんは素直でカワイイな」

ほな、お疲れさーん。と。
とんでもないことをしたというのに何事も無かったように隠岐先輩はその場を後にした。


「全っっっ然似てなかったわ隠岐先輩…!」
「でしょ!?烏丸くんは別格なんだから」
「いや、むしろ隠岐先輩がやばい。明日から顔を見れる気がしない…!」
「は!?なにそれちょっとどういうこと!」


ツイン部屋は三雲くんを指名しました。




back


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -