突然ですが私は二宮隊の辻先輩の大ファンである。その戦いぶりを初めてモニター越しに見た時は感動した。いつも冷静でフォローが上手くて動きに無駄がない。精錬された動きとはきっと辻先輩のような人のためにある言葉なのだと思うほどに。憧れはやがて恋心に代わり遠くから眺めてるだけでも幸せだったし少しでも辻先輩に近付けるように孤月で腕を磨いていた。

そんな私にまさかこんなことが起こるとは。

「よろしくね、リン」
「よ、よろしくお願いします」

遠征選抜試験とやらに参加するよう通達がきた私はチームシャッフルにより王子先輩の隊員としてこの試験を受けることとなった。他のメンバーは仁礼先輩、生駒さん、同い年の帯島ユカリ。そして──

「あっ よろ…… ます………」

滅茶苦茶大ファンの辻先輩であった。
まてまて。誰だこの試験を考えたのは出てきなさいありがとうございます!違う、本音が漏れた。年頃の男女が同じ屋根の下…屋根の下どころかこんな狭い空間で一週間寝食を共にするってどういうこと?ご褒美なの?また本音が漏れた。
兎にも角にも、私は王子先輩のミラクルファインプレーのお陰でこの一週間は辻先輩と寝食を共に出来るということだ。王子先輩曰く「絶対面白いでしょ」とのこと。いやもう全てを許す。ちょっと笑顔が怖いなとか思っててごめんなさい貴方はナイスガイです。


と、まあ。
期待に胸を膨らませていたのだけどなんと辻先輩。女の子が苦手らしい。いや、苦手との情報は仕入れていたし苦手なら女の影が少なそうでいいなーなんて思っていたけれど私の想像以上に苦手だこれ。

「辻先輩、これなんですけど─」
「あっ  そっ……うん……」

すごい。全く会話にならない。私とユカリは年齢が低く共通課題は難しすぎる問題も多かった。王子先輩の計らいでユカリは王子先輩に。私は辻先輩に分からない問題は質問するようにと指示を出された。仁礼先輩や生駒さんではなく女の子が苦手な辻先輩に聞いていいのか?と尋ねると「リン相手なら大丈夫だよ」と物凄く失礼なことを言われた気がしたけどこの機を逃すのも嫌だったため口は挟まないでおいた。辻先輩も滅茶苦茶戸惑ってたけど最終的には承諾してくれた。生駒さんが「え、俺は?」と言ってたのは聞こえないフリをしましたごめんなさい!

結果として。
辻先輩との会話が成立しないので私の共通課題も進まないし辻先輩の手まで止めてしまう。

(うーん…)

戸惑ってる辻先輩超可愛いなギャップ萌えやばいだろ。ダメだ、落ち着け本能カムバック理性。クラスメイトの友達も言っていた。恋愛は駆け引きよって。押してダメなら引いてみるのも手よって。なんの話?
馬鹿なことを考えてないでそろそろ本格的に会話を成立させないとまずいだろう。少し悩んで私は席を立ってメモ帳とペンを持ってそこに文字を書くとにした。

『辻先輩、これで会話をしましょう!』

クイズ番組のフリップのようにメモ帳を掲げると辻先輩は目をぱちくりとした後、私と同じように席を立ってメモ帳とペンを持って戻ってきてくれる。そして、

『迷惑かけてごめん。よろしくお願いします』

とメモ帳で返事をしてくれる。まって。これ私、辻先輩の書いたメモ帳もらえるのでは?まじか、それは凄まじいご褒美だ。
申し訳なさそうにする辻先輩とは真逆なくらい上機嫌になった私を見て王子先輩がちょっと吹き出してた気がするけど気のせいだろう。あの人絶対面白がってるけどね。


「疲れたーーユカリ課題出来た?」
「王子先輩のおかげでいい感じッス!」
「わかる!私も辻先輩のおかげで──」

はっ!と。
すぐにメモ帳に伝えたいことを書いて辻先輩に差し出す。

『辻先輩のおかげでかなりいい感じです!』

そのメモを受け取ると辻先輩がふはっ、と可笑しそうに笑みを溢した。天使かな?

「辻ちゃん、リン相手なら結構大丈夫そうだろう?」
「……はい、その。ちょっと変わってますね斎藤さんは」
「え!?」

突然の変人扱い。心の声漏れてないよね!?漏れてないのに変人認定されてるの!?
そんな私の様子を見て王子先輩とユカリは笑ってるし仁礼先輩はほーう?と楽しそうだし生駒さんはご飯を作ってくれてるので離席中です。

「なるほどなー王子が面白そうって言ってたのはこういうわけか」
「はい、楽しいッス!」
「そうだね。ぼくもかなり満足してるよ。とりあえず辻ちゃんはこの試験中にリンと普通に話せるようになるのを目標にしようか」
「え!そ、それは試験に関係あるんですか…?」
「辻先輩、ファイト!」
「……斎藤……さん、まで…」

王子先輩の素晴らしい提案に思わずガッツポーズをしてそう声をかけてしまう。いきなり距離を詰めすぎた…と反省して私はメモ帳に『辻先輩、ファイト!』と先ほどの発言を無かったことにしてもう一度伝えると辻先輩はそれを見てまたしても小さく吹き出してしまう。

「うん……さっき……聞いたね…」
「やっぱりリンも面白いね。これは楽しくなりそうだ」

果たして私と辻先輩はこの一週間で普通に喋れるようになるのか。王子先輩のこの提案のおかげで辻先輩と凄く仲良くなっちゃいました!という妄想は暫くしようと思う。
はー、閉鎖環境試験最高。辻先輩を盗み見しながら食べるご飯は滅茶苦茶美味しい。辻先輩の顔面で白米三杯はいけるね。いや食糧は限られてるからそんなに食べたらダメなんだけどね。ていうか本当に美味しい。生駒さん、料理出来たんだ…


「俺の出番少なない?」




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