トリオン兵は愛を知る | ナノ

File:6 宇佐美栞


「あ、いたいた。遊真くん、ちょっとリンちゃんを借りても良いかな?」
「しおりちゃん。おれは大丈夫だよ」
「シオリ、どうしたんですか?」
「それはあとのお楽しみかな。遊真くんも楽しみに待っててねー!」

シオリに手を引かれてその後をついていく。シオリは出会った時からずっと優しくて明るい女性だ。私が人間ならシオリのような女性になりたかったと思うくらい彼女は素敵な女性である。そんなシオリに手を引かれて着いたのは彼女の部屋でそして──

「あ、きたきた」
「キリエ?」
「リンちゃん。ずっと同じお洋服着てるよね?」

シオリの部屋にはキリエの姿があってシオリにはそんなことを聞かれる。同じ服、というのはきぬたさんに着せてもらったこれのことだろう。確かに同じではあるけれど…

「私はニンゲンではないので問題はありませんが…迷惑をかけていたでしょうか」

発汗などでニンゲンならば着替えの必要があるかもしれないけれど私はトリオン兵であるため同じ服でも何も気にならない。だけどシオリやキリエからは不潔に見えていたかもしれない。ニンゲンは衛生面には気を使わなければならないし迷惑をかけていたなら申し訳ない。

「あーもう!そんな顔してるんじゃないわよ!」
「ひ、ひりえ?」

両頬をキリエに包み込まれてわしゃわしゃとつねられる。乱暴なように思える行為なのに優しさを感じるのはキリエの人柄が大きいのだろう。

「リンちゃんに似合いそうな服をこなみと色々用意したんだよー!是非着てほしいな」
「え?ふく、ですか?」
「そーよ。あんた折角可愛いんだからオシャレしなきゃ損じゃない!」

ほらほら、とキリエにとても可愛らしいふくを押し付けられる。それはシオリやキリエが着たらとても似合うんだろうと見るだけで分かるようなふくで、

「こ、これを私が着てもいいんですか?」
「リンちゃんのために用意したんだよ」
「こっちも似合いそうなのよねーでもとりあえずそれから着てみて!」

キリエに急かされて、シオリに手伝ってもらって渡されたふくを着てみる。これはわんぴーすとよばれるもので頭からすっぽりと被れて着替えがとても楽であった。
変じゃないかな。トリオン兵の私がこんなに可愛らしいニンゲンのふくを着るなんておかしいんじゃないかな。

「可愛いー!すっごく似合ってるよリンちゃん!」
「あたしが選んだ服なんだから当然よ!ほらほら!鏡見てみて!」

楽しげに声を弾ませる二人に背中を押されて鏡の前に立たされる。そういえば私はあまり自分の姿を直視したことがなかった。心のどこかで自分はトリオン兵だからニンゲンの真似事をしているのはおかしいのではないのかと。そんな風に思っていたのかもしれない。

「あ……」

鏡に映っているのはわたしで、でもわたしでないようで。わんぴーすを着て鏡に映る私は驚くくらいニンゲンだった。いや、ニンゲンに見えた。自分がトリオン兵だということだけは思い出せるのにこんな、まるで

「わた、わたし」
「ん?どうしたのリンちゃん」
「私、ニンゲンの真似をして、いいんですか?」

私はトリオン兵だ。それだけは覚えている。ニンゲンの真似事をしてもそれは変わらないのに、ニンゲンみたいに振る舞えるのが嬉しいなんて、なんて滑稽な──

「いいんだよ。リンちゃんはリンちゃんなんだから。人間とかトリオン兵とか関係ない。アタシはリンちゃんともっと仲良くなりたい」
「シオリ……」
「あああ!もう!そんなこと気にしてるんじゃないわよ!」

そう言ってキリエは私を抱きしめてくれて、シオリもそれに続いて私を抱きしめてくれた。心が満たされて、満たされすぎてどうしていいか分からなかった。


「じゃーん!遊真くんおまたせ!どうどう?リンちゃん可愛いでしょ?」
「お、本当だ!可愛いなリン」
「可愛いですか?」
「可愛いぞ?」
「嬉しいです!」
「やるねぇ遊真くん……」



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