トリオン兵は愛を知る | ナノ

File:4 空閑遊真


タマコマシブでの約束事は二つ。一人で外に出ないことと何かを思い出したらすぐに言うこと。この二つを守ってくれさえすればあとは自由にしていいと部屋まで与えられた。あまりの待遇に逆にどうしていいか分からないくらいだ。今はもう深夜だろうか。慌しく楽しい一日が終わりを迎えている。このままスリープモードに移行すれば解除する時にはまたタマコマシブでの新しい一日が始まるだろう。

「そういえば…」

屋上に続く階段があったはずだ。一人で外に出ないと言っても敷地内なら問題がないので屋上は好きな時に使っていいとリンドウに言われた。あのどれだけ手を伸ばしても届かない空が見たい。少しだけ悩んで、ちょっと堪能したらすぐに帰ってこようと自分に言い聞かせて私は屋上へと向かうことにした。

ガチャン、と屋上への扉が開かれる音が響く。静まり返った世界の中ではそんな音すらとても大きく感じる。

「む?」

そしてそこにはユーマの姿があった。

「ユーマ?眠らないのですか?」
「うん。リンはどうしたんだ?また寂しくなったのか?」
「いえ、タマコマシブの人達が皆優しく構ってくれたので今は寂しくありません」
「そっか。そりゃよかった」
「でもこんな時間にユーマに会えるとは思っていなかったのでとても嬉しいです」

そう言うとユーマは優しく笑って手招きをしてくれる。すぐに駆け寄るとユーマは空を指差した。ユーマが指差した先には暗く姿を変えた空が広がっていて

「わぁ…!」

その暗闇の空に広がるのは多くの星々。昼間の青空とは姿を変えて神秘的なその姿に目を奪われる。世界はなんて綺麗なんだろう。ううん、この国が特別綺麗なのかもしれない。目に映るもの全てが新鮮で美しい。景色も、人も、なにもかも。

「うむ。良い反応だ」
「とっても綺麗です…ユーマもこの空を見るために起きていたんですか?」

私の質問にユーマはううむ、と少しだけ悩んだ後に「まあいっか」と言って口を開いた。

「おれは眠らなくていいんだ。だから用事がない夜は大抵ここにいるよ」
「眠らなくて良い?ニンゲンは睡眠が必要なのでは?」
「そうだな。ニンゲンには睡眠は必要だ」

ユーマは笑ってそんなことを言うけれどよく分からない。だけどなんとなくはぐらされている気がした。ユーマは眠らない理由を私に話したくないのかもしれない。なら私も聞かないほうが良いだろう。それに

「じゃあユーマは私とお揃いですね!」
「お揃い?おれはトリオン兵じゃないぞ?」
「はい!眠らなくても大丈夫なお揃いです」

理由はなんであれユーマが眠らなくても大丈夫というのならこうやってユーマと話せる時間が増えるかもしれないということだ。ニンゲンは睡眠を必要とするからその間は干渉することは出来ない。ニンゲンが機能を休めている間は私もスリープモードに移行していたけれどユーマはニンゲンの中でも特別なようだ。そういえばユーマだけはずっとトリオン量が測れるし何か関係しているのかも。

「リンはやっぱり面白いな」
「そうですか?」
「うむ。ならお揃い同士少し雑談でもしますか」
「お話してくれるんですか!」

ユーマの申し出が嬉しくて目を輝かせているとユーマも楽しそうに話を始めてくれた。今日のカレーが美味しかったとかユーイチがくれるぼんち揚げはくせになるとか他愛のない話を延々と飽きることなく話し続ける。たのしい。こんなにも楽しい日々が来るなんて思ってもいなかった。記憶は思い出せなくても私の心には寂しさが張り付いている。きっとずっと寂しい思いをしていたのだろう。でも今は確かにその心が満たされている。

「ユーマ、迷惑じゃなければまた夜に遊びにきても良いですか?」

そんな夢みたいな希望をユーマに尋ねるとユーマは「もちろん」と優しく笑ってくれるのだった。



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