トリオン兵は愛を知る | ナノ

File:3 小南桐絵


「はぁ!?あんたがトリオン兵?人間じゃないの!?」
「はい。私はトリオン兵です」
「凄いねー本物の人間みたい!ね、触ってもいい?」
「どうぞ」

タマコマシブに着くなり私を取り囲んで騒いでいる二人はキリエとシオリという名でこの建物の一員らしい。珍しいものを見るような信じられないようなものを見るような好奇な視線を感じるけれど嫌悪感が混ざっていないので居心地は悪くない。むしろ構ってもらえるのは嬉しいくらいだ。

「わあ!ほっぺもちもちだ!子供の肌みたいで気持ちいいー」
「うそ!?あたしも触る!」
「はひ、どうほ」

シオリに続いてキリエも私のほっぺたをふにふにと触ると「ふおぉ…!」と何とも言えない声を上げた。二人ともとっても可愛いし雑に扱わないでくれる優しさも感じる。満足したのか私から手を離して少し距離を取るとキリエは腕を組んで難しい表情を作る。

「本当にやわらかかった…ちょっと迅!本当にこの子トリオン兵なの?あたし達のこと騙そうとしてない!?」
「え、小南先輩信じてたんですか?この子普通の人間ですよ?」
「はぁ!?」

キリエの言葉にトリマル…紹介された名前は違った気がするけれどトリマルと呼ばれる頻度の多い男の人がよく分からない返事をする。私はニンゲンじゃないのにどうしてそんなことを言うんだろう?

「え、人間なの!?あたし結構強くつねっちゃったわよ!?大丈夫!?」
「えっ、あの、私…」
「まあウソですけど」
「……はあぁ!?」

ウソをつかれたキリエはトリマルに怒っているようだけれどその様子はとても微笑ましいし周りの皆も慣れているように見える。仲が良いんだな、とつられて笑っていると大きな男のひと…レイジが声をかけてきた。

「トリオン兵で間違いはないんだな?」
「はい。私はトリオン兵です」
「そうか。まあ害はないと迅が言っているし問題はないだろう。よろしくなリン」

リンと。レイジはユーマがつけてくれた私の名前を呼んでくれる。それが嬉しくて差し出された手を両手で握り返す。

「はい!よろしくお願いしますレイジ」
「はぁ…まあボスが承諾してるならいいわよ」
「アタシはむしろ興味があるなぁリンちゃんの体に…!」
「宇佐美、言い方が悪い」

どうやらリンドウやユーイチはタマコマシブの皆からの信頼が厚いようだ。その二人が私を連れてきたので細かい詮索もないのだろう。そもそも細かく聞かれたとしても答えられることは覚えてることだけしかないのだけど。

「ここは賑やかですね」
「うむ。大体いつもこんな感じだな」
「それはとても良いことですね」
「リンはどんなとこに住んでたかはまだ思い出せないのか?」
「はい。まだ思い出せませんが…でもこんなに賑やかなのも、こんなに綺麗な世界も初めて見たような気がします」

心の底からこの環境が好ましいと思う。私は一体どんな場所でどのように扱われていたのかは分からない。それこそただのトリオン兵なのだから作られてすぐに戦場…この国に放り込まれたのかもしれない。そんな私がこんなに色んなことを体験できるなんて奇跡に等しいのだろう。

「…そっか。その気持ちはちょっと分かる気がするな」
「ユーマもここが好きなんですか?」
「うん。おれの大事な場所だ」

ユーマの優しい声に嬉しくなって微笑めばユーマも優しく微笑んでくれる。そんな私達の前にキリエがよく分からないものを持ってきた。

「あんた、ご飯は食べられるの?」

そう言って差し出されたのは初めて見る物体だ。茶色の物体の中には色々なものが入っている。これは──

「毒味ですか?」
「どっ!?失礼ね!毒なんて入れてないわよ!」
「小南先輩知らないんですか?トリオン兵にカレーは毒になるんですよ」
「え!?うそ、ごめん!あたしそんなつもりじゃ…」
「すみません。ウソです」

先ほどと同じようなやりとりをしてキリエはトリマルのほっぺたをつねっている。どうやらトリマルはよくウソをつくみたいだしキリエはそれに騙されるみたいだ。どうしてウソをつくのかは分からないけれど悪意のあるウソには感じない。きっとこれがあの二人の日常なのだろう。

「レプリカは食べることは出来たぞ」
「お、ならリンも食べられるんじゃないか?」
「はい。ですが私は食事から栄養は摂れないため食材の無駄になってしまいます」
「ご飯ってのは皆で食べたほうが美味しいんだよ。…ってリン、味覚はあるのか?」
「はい。備わっています」
「なら食べてみるといいぞ。こなみ先輩のカレーは美味いからな」
「……かれー」

ユーイチとユーマに勧められてかれーと呼ばれる茶色の物体をすぷーんというものですくって口へと運ぶ。それは本当に──

「…!美味しい!」
「お気に召しましたかな?」
「はい!とても美味しいです!こんなに美味しいものはじめて食べました!キリエが作ったんですか?」
「そーよ。あたしが作ったんだから美味しくて当然でしょ」
「すごいです!キリエは天才ですね!」

あまりの美味しさに感動して言葉を続けるとキリエが私の元へと近付いてくる。あれ、なにかいけないことを言っただろうか。そんな不安をよそにキリエは私の頭をくしゃくしゃと少し乱暴に撫でた。

「ちょっと迅!?この子可愛すぎるんだけど本当の本当にトリオン兵なんでしょうね!?」

信じられない!とキリエは私を撫でたり抱きしめたりと沢山構ってくれたしかれーとやらもおかわりまでさせてくれた。キリエは優しい子だ。



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