トリオン兵は愛を知る | ナノ

File:0 愛


──……箇所 修復 ……  

【…… お前は ……の国の…… 兵だ …】
【……めまして …… おれ…… 悠一 …】
【… 綺麗 …… 嬉しく…… うな… 】



──…神経 接続 ……

【…… あんた…… トリオン兵…… 人間…… ないの!?】
【…… ません…… ウソ……す…… 】
【…… はあいじょう……一番…… すぱいす…… 】



──…状態 …クリア ……

【…… とか……兵とか関係…… アタシ…… もっと…… なりたい】
【…… ひっくるめて…… るって…… んだ……】



──…同期 …開始 ……

【…… だな…… 隠し事…… 好きじゃな…… 】
【…… よくなっ…… 一緒に…… 行こう…… 】



──…50 …%

【そうなったら…… おれを……恨んでくれていい】


──90 %


【リン、それは告白って言うんだぞ】


「おはようリン」

とても聞き覚えのある声に目を向けると黒髪の男の人が私に向かって微笑んでくれている。そうだ、私は確か守りたい国のために自爆をしたはずだ。あれ、だけど何故思考出来るのだろう。

「おーい。おれのこと忘れちゃったのか?」
『まだ同期が完全ではないのかもしれないな』
「ううむ…」

黒髪の男の人の横に見たこともない黒い物体が飛んでいるしもしかしなくても今言葉を発しなかっただろうか?

「ゆーま。くがゆーまだよ。ちょっと髪の色とかは戻っちゃったけど…」

くが ゆーま。
ああ、その響きはとても好きだ。そう。私はこの国でユーマという白髪の少年に出会って彼を愛した。成長したらこんな青年になりそうだな、なんて──

「ゆ、ユーマ!?」
「お。やっとお目覚めですか」
「え…本当にユーマ、なんですか?」

仰向けになっていた体を起こしてくがゆーまと名乗った男の人を凝視する。私の記憶とはかなり違って大きく成長した黒髪の男の人。だけど確かに顔はユーマである。いやまって。それも大切だけれどこれはどういうこと?

「正真正銘ゆーまです。久しぶりだな、リン」
「え…これは…?私、自爆して死んだはずじゃ…?」
『確かにほとんどlostしていたがよほどの技術者が作ったのかコアが完璧に残っていたためそこから復元を試みたのだ』

ユーマのそばで飛んでいる…多分トリオン兵だろう。そのトリオン兵は明確な意志を持って言葉を発している。彼は──

「……もしかして、レプリカ?」
『如何にも。はじめましてリン。リンの話はこの数年でユーマから聞かされている』
「ユーマ、レプリカに再会出来たんですね!」

私の言葉にユーマは嬉しそうに頷いてくれる。

「リンに紹介するって約束したからな」
「はい!嬉しいです…」
「……はぁ、変わらんなリンは」

そう言ってユーマは私に近付いてくる。記憶の中のユーマより大分大きくなっていて何だか少し緊張してしまう。

「ところでリン。言い逃げは狡いと思います」
「言い逃げ?」
「うむ。おれのことを愛してたって。あんな風に言われてさよならなんて絶対に嫌だからなおれ」
「あ…!」

そういえばそんなことを言った記憶がある。確かにあれは言い逃げと言われても仕方がないと思う。けれどあのまま喋っていたら自爆の決心が揺らぎそうでもあった。でも今思えば残されたユーマにとっては言い逃げされて気分は良くなかっただろう。

「ごめんなさいユーマ…どうしても伝えたかったんです」
「…なにを?」
「え、だからその…」

ユーマは私に聞き返すけれどどう見ても覚えている表情をしている気がする。だってなんだかとても楽しそうですし!

「おれの目を見て、ちゃんと言って?」

あの時。お別れの時間が取れなくて電話越しで伝えた思いがある。ちゃんと覚えている。私だって面と向かって初めて知ったこの気持ちを伝えたかったんだ。

「ユーマ、愛してます」
「……うん。おれも」
「え!ユーマ、私はトリオン兵ですよ…?」

まさか返事をもらえるなんて思っていなかったし口から出たように私はトリオン兵だ。ユーマはニンゲンなのだからニンゲン同士で愛を育んだほうがいいに決まっている。

「おれ、トリオン兵には縁があるみたいだ」
『光栄だな』

ユーマの家族であるトリオン兵のレプリカの声が少しだけ弾んでいるように感じる。だってそんなの気持ちが分かりすぎるから。トリオン兵でありどうあってもニンゲンにはなれない私たちをユーマは受け入れてくれている…

「リン。実はな、あの頃はおれも愛ってどんなものか分かってなかったんだ」

それはきっとまだ白い髪で今よりも小さかった頃の話だろう。確かに今思えばあの時ははぐらかされていた気がする、けど。

「今なら分かる。おれはリンを愛してる。愛する人のためならどんなことでも出来るって言ったのはリンだぞ?だからおれは──絶対にリンを直すって頑張ったんだからな」

ユーマがどれだけの覚悟で私を直してくれたのかなんて、彼の姿を見れば分かった。一年や二年じゃない。きっとあの頃から何年もかけてユーマは私を直してくれたんだ。──私を、愛していたから。

「ユーマ、これが愛なんですね」
「うむ。悪くない」
「ふふ、そうですね。とてもしあわせです」

ユーマと手を握り合う。もう二度と会えないと思っていた。だけどユーマのおかげでまたこうして一緒にいられることが嬉しい。どれだけ見つめ合っても飽きることがない。ああ、これが──

「……む?」

ユーマが何かに気付いたような表情を浮かべる。そしてそれは私にもわかった。なんだか外が騒がしい。えっと…

「ちょっと遊真!もういい加減入るわよ!?あたし、空気読んだからね!?」
「小南先輩空気読めるんですか?透明ですよ?」
「まて。まだ早いだろ。キスの一つもしてないぞ」
「それは確定された未来だしもう良くない?」
「私もリンちゃんと喋りたい…!」
「アタシはリンちゃんを撫で回したい!」
「いやでも今までの空閑の頑張りを見てるともう少し待っても…」
「まあまて。もう少し見守ろうではないか」

……騒がしい。もう、全部筒抜けです。
そしてその懐かしさに胸が締め付けられた。早く、早く皆に会いたい。大切で守りたかっただいすきな人たちに。

「リン、行きますか」
「はい!」

差し出されたユーマの手を取って歩み出す。
いろんな形の「愛」に応えるために。







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