トリオン兵は愛を知る | ナノ

回収


「予知通り大量の近界民を確認しましたが全て反応が消え、残りは生体反応が5つのみです!」
「迅が向かっている。回収は滞りなく済むだろう」
「……本当に、かなわんな」



戦闘体が解けて生身になった五人のトリガー使いは簡単に捕縛することが出来た。そして約束通りもう一つの回収も済んだおれは本部へ向かう前に遊真に「本部で話そう」とメッセージを送った。遊真には知る権利があるから。



***


その子を初めて見た時に見えた未来は凄まじいものだった。本部が大爆発を受けて3分の1が崩壊。死者もかなり出ていて鬼怒田さんも亡くなっていた。そしてその混乱に乗じるように以前撃退した国が攻めてきて報復なのか一般人を殺しまくるという何があっても回避しなければいけない未来だった。だけど分岐は思いの外簡単でおれがこの子を本部から連れ出して玉狛支部に連れて行くだけで未来は最悪から最高のものに変わった。どういうわけかこの子は自分から自爆する未来を選んでくれるみたいだ。しかも場合によっては残党を道連れにして。
願ってもない未来を確定させるために城戸さん、鬼怒田さん、ボスに伝えれば断られるはずもなくリンと名付けられたトリオン兵は玉狛支部で自爆をするその日まで過ごすことになった。

どうしてこの子が自ら自爆するという未来を選ぶのか。おれはこの時まだその経緯が分かっていなかった。

リンの未来の終着点は決まっているものの玉狛に連れてきてからのリンはいつも笑顔に溢れていて、見える未来もまた笑顔に溢れていた。そして解ってしまったんだ。この子はおれ達のために死んでくれるのだと。リンが楽しそうにしていればいるほど。遊真とどんどん仲良くなればなるほどそれを直視出来なくなっていった。
しあわせだと、嬉しいと。リンは素直に思ったことを口にする。その度に罪悪感で気が狂いそうになった。何も与えられてこなかったリンに幸福を与えておいてそれを餌に死に追い詰めるおれは何なのだろう。それでも秤にかけた時、リンと本部や鬼怒田さん、多くの一般人では選択肢は一つしかなかった。


***


おれが本部に着いた時、既に遊真は到着していておれは五人の捕虜と回収したものを鬼怒田さんに渡して遊真に向き直った。遊真は言った。「迅さんには見えてたの?」と。だから俺は全て話した。最初からこの未来が見えていたことも、リンではなく鬼怒田さん達を選んだことも、リンを自爆へと追い詰めたことも。遊真は最後まで口を挟まずに聞いた後

「…………そうか」

と一言だけ漏らした。
遊真が一番リンと仲良くしていたことは知っているし見ていれば分かった。おれは遊真からは奪ってばかりだ。レプリカ先生も、リンも。この先もまた何かを奪うのだろうか。

「おれはリンを選ぶことは出来なかった。…恨んでくれていい。リンが自爆することになったのも大体おれのせいだ」

遊真は顔を上げない。暫く沈黙を貫いた後ぎゅ、と拳を握るのが分かった。

「リン、しあわせだったって言ってた」

遊真の言葉に胸が締め付けられるように痛んだ。

「あの時だけじゃない。リンはいつもしあわせとか楽しいとか嬉しいとか。そんなことばかり言って笑ってたよ。夜になると報告にきて、楽しそうに話してさ。いつも…玉狛に来れて良かったって言ってた」

やめてほしい。もう、やめてくれ。
知ってる。おれもずっと見てたから。
リンはいつだって本当に、楽しそうにしていた──

遊真が顔を上げる。
その表情は最期に見たリンの表情と全く同じもので。

「おれは迅さんを恨まないよ。多分、リンもそう言っただろ?」
「…ああ、リンも恨んでくれなかった」
「そうだろうな。むしろ迅さんのおかげでリンを本部にひとりぼっちにしなくて済んだからな…ありがとな、迅さん」

リンも遊真も。二人にとっては最悪の未来に導いたおれを恨まずにむしろお礼を伝えてくる。二人にずっと幸せでいてほしかった。それを壊すレールを轢いたのはおれなのに…

「迅、空閑」
「きぬたさん」
「まだこんなところで話しておったのか。…空閑、これをお前にやる」
「これは…?」

それはおれがリンに頼まれて回収した──

「リンのコアだ。情報は全て抜き出した。…この国に来てからのFileは使えたもんじゃない。しあわせだとか好きだとか、あやつの感情ばかりが目につく。……わしではなくお前らが持っているのが適任だろう」

そう。あの大爆発でも情報を回収するためかコアだけは傷一つ付かずに残されていた。これをリンはおれに回収してほしいと言っていた。万が一母国に持って帰られたら情報が更に渡ってしまうし、何より見られたくないからと。

いや、ちがう。そんなことより!

「遊真!」
「うおっ、な、なに迅さん?」
「おまえがそれを受け取ったことでほんの少しだけ未来が動いた。遊真、未来はもう動き出してる。何を選ぶかはおまえが決めるんだ」

おれの言葉に遊真は何か思い当たったのだろう。リンのコアを両手で握りしめて力強く頷いた。

「遠征行きを目指す理由がさらに増えたな」

分岐点の中には小枝のような奇跡だってある。
それを手繰り寄せるのは──



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