トリオン兵は愛を知る | ナノ

File: 任務完りョu


携帯電話から聞こえてくる声は確かにユーマの声だった。

「ユーマですか?リンです」
『リン?』
「はい。ユーイチに携帯電話をもらいました」
『へぇ、良かったじゃん。…ていうか体は?調子悪いんだろ?もう大丈夫なのか?』

離れていてもまるでいつもの夜のようにユーマと会話が出来る。それがとても嬉しい。どうやらユーイチはユーマ達に私が体調を崩したと伝えたようだ。それが一番詮索されにくいだろうし抜かり無いと思う。

『リン?』
「ユーマ。少しだけ、話をしてもいいですか?」
『……?うん、いいけど…』

ユーマにウソを吐きたくなかった私はユーマの問いかけには答えず一方的に話をすることにした。ごめんなさい、ユーマ。

「この国では色んなことがありました。その全てが楽しくて興味深くて暖かくて…毎日が輝いていて楽しかった」

どこまでも広がる空も、果てのない景色も、優しいニンゲンも。私にとっては全てが初めてでかけがえのない思い出だった。

「タマコマシブの皆も優しくて、誰も私がトリオン兵だからって軽蔑しなくて。まるで本当のニンゲンみたいに接してくれて本当に嬉しかった」
『リン、何を…?』
「でもやっぱり。私はユーマと一緒にいる時が一番しあわせでした」

初めて会った時からずっと優しくしてくれたユーマ。毎晩のように尋ねても嫌な顔一つせず話をしてくれたり、気付けば側にいてくれたり。もし監視が目的だったとしてもそれでもいい。むしろ感謝したいくらいだ。

「私の行動はもしかしたらプログラム通りに動いていただけなのかもしれません。それでも、この国で育んだ心は私だけのものです」

私の記憶解除のトリガーは「その国のニンゲンと親しくなること」だった。敵国のトリオン兵であれば高確率で敵国の組織の捕虜となる。その際に人好みする見た目と同情を誘う過去を思い出させればより情報を引き出しやすくなるといった考えであり、そしてそれは成功していた。私がタマコマシブで得たデータは全てオートで母国へと送られてしまっている。それはこの国からすれば相当の痛手だろう。

『リン、また何か思い出したのか?とりあえず帰ってこいよ。いや、おれが本部へ迎えにいくから──』
「ユーマ、私は愛というものがよく分かりませんでした。でも今なら分かる気がするんです」
『……?』
「大切な人や愛する人のためならどんなことでも出来る。私は失敗作としてニンゲンの情について学びましたがやっとそれを心から理解出来ました」

あの時。私に両腕を広げて子を庇った母親の姿が思い出される。あの時は本当につよいものは命を捨ててでもよわいものを庇うんだと困惑すらしたし、その情が羨ましくもあった。でも今は。

「私はこの国が好きで、タマコマシブの皆が大好きで。そして──ユーマを愛していました」
『…!リン、今どこにいるんだ!』

ユーマは何かに気付いたように声を上げた。もう潮時だろう。もしユーマに駆けつけられでもしたら全てが台無しになってしまう。それは許されることではない。私は好きだったこの国の空を見上げてゆっくりと一回瞬きをして座標を母国へと送信した。

「今までありがとうございました。さようなら、ユーマ」

準備は既に整っていたのだろう。数秒で多くの門が私の座標通りに開かれる。鳴り響く警報のせいでもうユーマが何を言っているのかは聞き取れなかった。やがて門からはトリオン兵とトリオン体に換装した兵隊が現れて私の姿を見て目を見開いた。

「な!?何故お前がここにいる!?」
「本部での自爆はどうした!?」

以前トリマルは私にもウソをつく時がくるかもしれないと言っていた。私はタマコマシブの皆が大好きだからきっとそんな時は訪れないと思っていた。
でも、私はウソをついた。私を作ったマスター達に。これは私の心と大好きな人達を守るためのウソだ。トリマル、ウソって案外悪くないものですね。

武器が私へと向けられる。
心配しなくても最終命令には従うし自爆だってしますよ。

「はい。私は守りたい国のために自爆します」

ユーイチに連れてきてもらったこの場所は以前の侵攻で更地になっていて大規模な爆発が起きても何の問題もない。そしてきぬたさんとユーイチの計らいによって防衛任務とやらのニンゲンもこの場所には近寄らせないようにしてもらった。つまり今ここには特攻トリオン兵の私と母国の兵隊しかいない。

「!! この、失敗作が──っ  」

それが私の最後の記憶。
失敗作と呼ばれるのが嫌だった。
名前で呼んでほしくても名前がなかった。
だけどリンって名前をつけてもらって。
失敗作だったから皆に出会うことも守ることも出来た。


ああ

  失敗作で

      よか  

         っ

                た



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