「言っただろ。おれを恨んでくれていいって」
部屋に現れたのはユーイチだった。彼の言葉が思い出される。そう、未来が見えると。それなら私がこの後何をしようとしているのかユーイチには
「見えているんですか?」
そう尋ねるとユーイチは「ああ」と即答する。
「もう一本道だ。…だからおれはそれを手伝いに来た」
ユーイチの申し出は願ってもいないものだった。ユーイチが手伝ってくれるのなら全て上手くいくだろう。私はユーイチにある場所を教えてもらい連れて行ってもらうことにした。
たくしー、というやつに乗って途中で降りて徒歩で向かっていく。ユーイチが連れてきてくれた場所は完璧に条件を満たしていて安堵からか笑みが溢れた。
「ありがとうございますユーイチ。ここなら完璧です」
「…うん」
ユーイチは、それこそ見たことないような表情を浮かべている。苦しそうな、泣いてしまいそうな。彼には未来が見えていると言っていた。私が何も言わなくてもここに連れてきてくれたことからそれは本当だろう。じゃあそんな顔をしてくれるのは私のためなのだろうかと少しだけ自惚れてしまう。
「リン。白状するとおれはリンに初めて会った時からこの未来が見えていた」
懺悔をするようにユーイチは言葉を続ける。
「リンを本部から連れ出さなければ最悪な未来になることが見えていて、おれは本部とリンを秤にかけて本部を取った」
そんな。当たり前の選択をどうして苦しそうに吐露するのか。
「だから、おれを許さないでいい。恨んでくれていいんだ、リン」
どうやらユーイチは私に恨まれたいらしい。それが彼の望みなら叶えたいとも思わなくはないけど…
「ごめんなさいユーイチ。私はユーイチを恨めません」
「…どうして」
「だって私はしあわせでした。ユーイチがあの部屋から連れ出してくれて本当に毎日が楽しかった。だから──」
恨むなんてとんでもない。
彼に伝えたい言葉があるとすれば
「この未来に導いてくれてありがとうございます、ユーイチ」
これが私の本心。楽しかった。しあわせだった。特攻トリオン兵としてこの国に置き去りにされたと思い出した今でもこの国に出会えて、そしてタマコマシブの皆に出会えたことが生きていた中で一番嬉しかった。
ユーイチは悲しそうな表情をして、だけど深呼吸を一つすると優しい笑顔を浮かべて何かを差し出してきた。
「これは?」
「携帯電話っていうんだ。使い方はこのボタンを押して…」
「皆の名前が表示されています」
「うん。話したい相手の名前が表示されたらこのボタンを押すと遠く離れていても話すことが出来る。玉狛のやつらの番号は全部入れておいたから」
これはユーイチの優しさだ。時間がなくてお別れを言うことができなかった私への…
「…最後に話したい相手と喋ってくれ」
「ありがとうございます、ユーイチ」
ユーイチは優しく笑って背を向けてしまう。これで彼と言葉を交わすのは最後になるだろう。最後に託さなければ。
「ユーイチ」
「ん?」
「回収は任せました」
私の言葉にユーイチは振り返って真面目な顔で頷いてくれる。
「約束する。死んでも回収するよ」
「死んじゃダメです」
何を言っているのか。ユーイチ達を死なせないために私は行動しているというのに死んではダメです。私の返事にユーイチは「ははっ」と笑って
「了解!」
笑顔でこの場を去って行った。
オサム。チカ。レイジ。トリマル。キリエ。シオリ。ヨータロー。…そしてユーマ。
ユーイチ以外の私と仲良くしてくれたタマコマシブの皆の名前が表示される携帯電話とやらと睨めっこがやめられない。名前を見るだけで皆の顔や声や優しさが思い返される。大好きだった。大切だった。
ピッ、と。最後に話したい相手の名前を表示してユーイチに言われたボタンを押すと電子音が定期的に鳴る。何回かそれを繰り返した後、
『はい』
聞きたかった声が携帯電話から聞こえてきた。
[ 26/30 ]← →
back