トリオン兵は愛を知る | ナノ

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全てを思い出した。ぜんぶ。なにもかも。
それと同時にオートで母国に私が記憶を取り戻すために得た情報が送信され、すぐに通信が送られてくる。

『……ようやくか、後数日遅ければこちらで処理するつもりだったが間に合ったようだな』
『私の作った失敗作ちゃんだからね。優秀でしょ?』

久々に聞くマスターや兵隊の声。ああ、間違いない。最後のロックが解除されたんだ。
人を殺すことが出来なかった私を処分しないほうがおかしかった。それでもマスターは私にはまだ使い道があるって笑っていたんだ。失敗作ちゃんを可愛く作ったのは相手を油断させるためだよって。上手く懐に入ってそして──

【貴女は成功作になれるわ。大丈夫よ、安心して国のために死になさい】

それが私に課せられた最終命令。


『予定通りお前は玄界の本部で自爆し、その間に私達は玄界を攻撃する。お前は自爆する場所から離れた場所の座標を送れ』
「私は現在本部にはおりません。また、この国は防衛が強固で各所にトリガー使いが配置されています」
『なんだと…?』

私の報告に苛立った声が帰ってくる。でも大丈夫。私は必ず任務を遂行すると心に誓ったのだから。

「本部へは時間を頂ければ本日中に潜入出来ます。また、それまでにリスクを負わずにこちらの国へ渡れる座標を取得し送信します」

そう提案すると通信の向こう側がざわめく。そして嬉しそうに弾む声。私はちゃんとマスター達の思惑通りに動けているだろうか。

『承知した。お前からの連絡を受けたら私達も座標へと移動を開始する。チャンスは一度切りだ。失敗作ではなかったということを示せ』
『失敗作ちゃんの勇姿、楽しみにしてるわ』

マスターの声を最後に通信は途絶えた。急がなければ。あの物言いだと本当に時間は残されていないのだろう。私は必ず任務を遂行しなければならない。本部までは調子が悪いと言えば連れて行ってもらえるだろう。ここのニンゲンは皆お人好しだから。

ガチャリ、と閉じられたはずのドアが開く。好都合だ。本部まで連れて行ってもらい、そしてトリガー使いの少ない場所を調べる。それで全てが上手くいくのだから。


「言っただろ。おれを恨んでくれていいって」





「あれ、リンは?」
「あ、遊真くん。リンちゃん調子が悪くなっちゃったみたいで迅さんが本部に連れて行ったよー」
「え、そうなのか」

夜ご飯を食べにリビングへ向かうとリンの姿がなく栞ちゃんに尋ねるとそう返された。リンは玉狛から一人では出歩けないこともあってか玉狛で食事をする時はいつも一緒だったから変な感じだ。美味しいと。それこそ何を食べても目を輝かせるリンは見てて飽きなくて。おれもこの国のご飯は美味しくて好きだからそんなリンと食べるご飯は最近の楽しみになっていた。

「おれも本部に行こうかな」
「うーん、今は車を出せる人がいないからなぁ…」
「ふむ…」

リンのことは心配だし気になったけれど栞ちゃんを困らせるのも良くないだろうと思い本部に行くことは諦めておれはいつも通り屋上で過ごしていた。レプリカと離れるまではいつもレプリカと過ごしていて。一人になった夜に慣れ始めた頃にリンが現れて。いつの間にかリン と過ごす夜が当たり前になっていたせいかどこか寂しさを感じる。

ごろん、と寝転がって空を見上げる。リンは空を見るのが好きで暇さえあればここに来て空を見上げている。おれはあまり気にしたことはなかったけれどあんまりにもリンが綺麗だというから見上げてみるとそこには確かに綺麗な空が広がっていた。おれ達にとっては当たり前の景色でもリンにとってはきっと真新しい景色だったんだろう。だからこそ本質を見抜く力が強いやつなんだ。
リンは好奇心旺盛で気になるとすぐに口に出すし、教えれば素直な反応を返す。そんなリンとおれも玉狛のみんなもすぐに打ち解けて仲良くなっていった。


──私にとって一番特別なのはユーマなので、もしかしたらいつか私はユーマを愛するのかもしれませんね


昼のリンの言葉を思い出して思わず笑ってしまう。あれはどこからどう聞いても告白だろう。なのに当の本人は大真面目に口にするから困る。出会った時からおれの一度の頼み以外ではウソをついたことのないリン。そんなリンが口にしたのだからあいつはいつかおれのことを愛してくれるのだろうか?

おれは、そんなリンの想いに

ヴーッとポケットに入れたままの端末が震える。しかも一度ではなくずっと。電話だろうと取り出すと画面には知らない番号が表示されている。

「はい」

寝転がっていた体を起こしておれは端末を耳に当ててその電話に出ることにした。



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