「リン、そろそろ飯が出来るから宇佐美と雨取を呼んできてくれないか?」
「わかりました」
キッチンでご飯を作っているレイジさんにそう言われて私はチカを探しに行くことにした。今日はタマコマシブのトレーニングルームで訓練をしていると言っていたのでそこへ向かうことにした。
「シオリ、入ってもいいですか?」
「リンちゃん、いいよー!」
シオリの返答を得て私はトレーニングルームへと足を踏み入れる。実はここに入るのは今日が初めてだ。今までは記憶があまり思い出せていないため敵国のトリオン兵である私はあまりこの国の戦術に関わるものに触れない方がいいと思っていたからだ。だけど「ちゃんと思い出せたんだしもう気にしないの!」とシオリに言われてタマコマシブ内ならどこへでも好きに移動していいことになり、レイジが私にシオリとチカを呼んできてほしいと頼んでくれたのも信頼されているようで嬉しかった。
「そろそろ昼食が出来上がるとレイジが呼んでいます」
「ありがとー!千佳ちゃん、お昼ご飯だってー」
シオリはモニター越しにそう声をかける。モニターには何が写っているのだろうとそわそわしていると、シオリは優しく手招いてくれてその画面を指差してくれる。そこには
「え、外ですか?」
「ううん。これはね、トリガーで空間を作ってるんだよ」
「トリガーで!?こんな大容量のデータを…」
「リンちゃんの国ではこういう使い方はしてなかったのかな?」
「はい、記憶にありません」
「そっかー、うちも結構やるでしょ?」
誇らしげなシオリに素直に「凄いです!」と伝えるとシオリは嬉しそうに微笑んでくれた。モニターにはチカの姿もあって彼女にはあまり似合わない大きな銃を持っていたのがとても印象的だった。
「チカは狙撃手なんですか?」
「え?うん、そうだよ」
昼食後、ソファーで休息をとっていたチカに尋ねるとチカはあっさりと肯定の返事を返してくれる。モニター越しに見た大きな銃。あれを手にして接近戦に挑むとは考えにくいため狙撃手と判断したがどうやら合っていたみたいだ。
「チカはユーマやオサムとチームと言ってましたし、あの銃で二人を守っているんですね」
「そんな…私なんてまだまだだよ」
チカは謙遜…というよりは本気でそう思っているような口ぶりをしている。まだ自分の実力に自信がないのだろうか。だけど今日も、そしていつもチカは努力をしているのを知っている。少しの間一緒にいた私に伝わっているのだからユーマやオサムにもその頑張りはちゃんと伝わっていると思う。
「リンちゃんは…」
「はい?」
「ニンゲンを殺せないって言ってたよね?」
チカからそんなことを言われるとは思っていなかったため驚いてしまったけれど私はチカの質問に答えることにした。
「はい。私はニンゲンを殺せませんでした」
「…わたし、ちょっと分かる気がするの」
「チカ?」
「わたしも、人を撃つのがこわいから…」
それは狙撃手としては致命的だろう。人を殺すために作られたトリオン兵が人を殺せないのと同じように。
「私はニンゲンの抱く情を学んでニンゲンを殺すことが出来なくなりました」
「……?」
「きっとチカは学ぶ前から知っているんですね。目の前の相手は誰かにとっての大切な人であるということを」
「…!」
チカが本当に人を殺すことはないだろう。トリオン体を破壊してもニンゲンは死なないのだから。それでも撃つのが怖いということは純粋に死を連想してしまう、というのが妥当な線だとは思う。
「トリオン体を完全に破壊しなくても狙撃手としてユーマやオサムを助けることは出来ると思います。どうかチカ、あまり気負わないで」
「…リンちゃん、ありがとう…」
チカは私の言葉にどこかホッとしたような表情を浮かべてくれたので私もそれを見て安心することが出来た。チカは本来、戦うことは好きじゃないのかもしれない。それでも狙撃手として訓練をする道を選んだのには相当な理由があるのだろう。
どうかチカの努力が報われますように。
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