トリオン兵は愛を知る | ナノ

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──……被害 損傷 ……  

──…トリオン 甚大な ……


【やっぱり…… 心を…… 失敗…… なんの……】


──…直ちに …必要 ……


【おめでとう…… にも使い道…… すばら…… 】


──…緊急 …を します



「ようやくお目覚めか」

瞼を開けると光が差し込んできて私の視界を一瞬にして奪った。視覚情報を切り替えるとだんだんと周りの景色が捉えられるようになる。
ここはどこだろう。覚えのない場所だ。ぱちぱちと瞬きを繰り返しても場所の情報を得ることが出来るわけもなくいま認識出来るのは自分が仰向けになっているということだけだった。

「ここ は」
「質問はこっちがする。お前はどの国のトリオン兵だ」
「  トリオン 兵 …」

その言葉には聞き覚えがある気がする。しかし情報を整理しようとするとモヤがかかったように思考が塗り潰されてしまう。なんだか目が回っているような錯覚もするけれど多分気のせいだろう。ピーピーという機械音が鳴ったと思えばガラスの向こうから声をかけていた人が驚いたような声を上げる。

「…エラーだと?おいお前!…自分が何者か分かっとるのか」
「なにもの… わたし…」

わたし わたしは 

「わたしは トリオン兵…」
「そうだ。お前は先日この国を襲ってきたトリオン兵の一人だ。お前たちの狙いはなんだ?国は、能力は!」
「狙い…国……」

私は トリオン兵… ?

「わか、らない」
「…なに?」
「わからない、わたし…わたしは、なに?」

何も思い出せない。だけどガラス越しのこの部屋が妙に居心地が悪かったり荒い口調が怖かったり。確かに「わたし」の感情は存在している。私は一体、何故ここに…?

「……また夜に来る。いいか、妙な真似はするなよ。問題を起こせば即処分もあり得るからな」

処分。その言葉に激しい恐怖を覚えたわたしは何度も頷き、それを見たガラスの向こうの人は部屋の電気を切ってこの場を後にした。
ここはどこだろう。どうして私はここにいるのだろう。私は何なのだろう。
何も分からないまませめて妙な真似をしないように仰向けになっていた台から降りて部屋の隅で膝を抱えてスリープモードへと移行することにした。


【 ……おまえ… 大丈夫…… のために… 】


「おい、起きろ」

部屋の明かりが点けられ呼びかけに応じるようにスリープモードを解除する。何か記憶を見ていた気がするけれど曖昧でよく分からない。だけど気分は最悪で起こしてくれたことに感謝を覚えるほどだった。

「ふむ、この子がそのトリオン兵ってやつか?」
「そうだ。だが言動が曖昧でな。確かにエラーも出ているが…真偽を調べるためにお前を連れてきた」
「オッケーオッケー。で、何を聞くのきぬたさん」

ガラスの向こう側には先程の人物ともう一人白い頭をした少年がいる。視覚がオートで反応して彼のトリオン数値を測る。どうやらあの少年はトリオン体のようで私には視界に入ったトリオン体のトリオン量を測るシステムが組み込まれているようだ。

「トリオン兵。お前はどこの国のトリオン兵だ?」
「わかり ません」
「…お前を作ったのは近界民か?」
「わかり ません」

私の返答に質問を投げかけてた人物が難しい顔をして横の少年へと視線を移した。

「どうだ」
「ウソはついてないよ」
「ということは本当に記憶データが壊れているのか…おいお前」
「はい」
「何か覚えていることはあるか?」

その言葉に私は必死に脳内回路を働かせる。が、やはりモヤがかかったような気持ちの悪い感覚に苛まれてほとんどのことが思い出せない。唯一覚えていること、そしてきっと体が覚えていることといえば。

「私は…トリオン兵…?」
「そんなことは分かっとる」
「この、部屋がこわいです」
「なに?」
「あと、怒られるのも、こわいです」

このガラス越しに隔離されている空間は堪らなく怖い。何か良くないことが起こるような、良くないことが舞い込んでくるような恐怖に支配される。怒られるのも怖い。怒らないでほしい。どうして、怒られるのか。どうしたら怒られないのかいつも分からなくて──いつも?

「きぬたさん怖いってさ」
「やかましい!…全く。ただのトリオン兵だというのにこうも人間そっくりに作られるとやりにくくて堪らんわ…」

今日はもう終わりだと言って二人は立ち去ろうとする。寂しいと思った。きっと私はいつも一人ぼっちだったのだろう。そんな気がする。

「あの」

立ち上がってガラス越しに声をかけると二人とも足を止めて私のほうを振り返る。不思議そうな、でも嫌な眼差しじゃない。私が微かに覚えている眼差しを二人は私に向けなかった。

「またきてくれますか?」
「なに?どういうつもりだ」
「ひとりは寂しい、ひとりは、かなしい」

どうしてそう感じるのかは分からなかった。スリープモードに入れば寂しさどころか何も感じないのだから。それでも私は寂しいという感情を知っていた。どうして?

「…なにを人間みたいなことを」
「またくるよ。おれ夜は大抵空いてるし。ところでおまえ、名前は何て言うんだ?きぬたさんは知ってる?」
「トリオン兵に名前なんてあるとは思えんが…何か思い出せるか?」

またくると白い頭の男の子が答えてくれたことにお礼がしたくてモヤのかかった思考をなんとか巡らせてみる。記憶は完全に失ったわけではないようでモヤ…というかまるで記憶という扉に鍵がかけられているようなら感覚だ。時間をかければ色んなことを思い出せる気がする。名前、なまえ。それはどう呼ばれていたかということだろう。一番覚えのある言葉は──

『ロック1 解除』

そんな電子音が頭の中で響いて私はある言葉を思い出した。そうだ私はトリオン兵だ。そしてよくこう呼ばれていた。

「失敗作と よばれていました!」

手繰り寄せて思い出せた言葉に少しだけ満足感を覚えているとそんな私とは裏腹に二人は複雑そうなよく分からない眼差しで私を見ていた。



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