トリオン兵は愛を知る | ナノ

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最初は 数字で呼ばれていました

それは名前なんて大層なものじゃなくて量産型トリオン兵である私達の識別番号。最初の頃は私も他のトリオン兵と同じ姿をしていてこんな心なんて芽生えていなくて。個体チェックが終わると名前が識別番号から失敗作に変わりました。今回の失敗作は私で最後だったようで私と同じ名前を付けられた失敗作達はマスターの命令通り一列に並んでただのトリオンの塊に戻る順番を待っていました。

「どうせ処分するなら一つ貰ってもいい?」

一番最後尾に並んでいた私の肩を叩いて女の人の声が響きました。粗悪品ですよ、なんて返答をされても女の人は

「どうせスクラップなんだから好き勝手にしても構わないでしょ?」

ひどく楽しそうでした。


女の人…新しいマスターに連れられるまま小さな部屋に押し込まれ、中心には台があってそこに横になりなと言われるがまま私は台の上に横になるとまず手足を固定されました。照明がとても眩しい。暗視を入れなければと思ったけれど「余計なことはするな」と言われていたため目が慣れるのを待つしかありませんでした。

「トリオン兵でも擬似的に痛みを与えられるんだよ。失敗作ちゃん、痛いってどういうことなのか。どこまで痛いと人間は死んで、そして死なないかを覚えようね」
「良いんですか?確かにトリオン兵は痛みでは死にませんがショック状態で回線が灼き切れればまた即スクラップですよ」
「いいんだよ。前みたいに耐えられないなら高いコストを使ってまで次の段階に進めないでしょ?それに──」

途端、激しい不快感──これは、これが痛み?
あまりの衝撃に固定された手足をガシャガシャと暴れさせてもそれは無意味に終わって痛みという不快感が私の体を襲い続けました。

「どうせスクラップ手前の失敗作ちゃんだからね。これがダメなら次の失敗作を用意するよ」



どれだけの期間、その実験が続いたのかは分かりません。私の記憶にあるのはいたい、だけでした。ニンゲンならば致命傷になる痛みに耐えられて偉いねなんて。何も嬉しくない賞賛をどれだけ受けたかも思い出せなくなった頃。それまでずっとガラス越しに私を観察していたニンゲン達が初めて部屋の中へと足を踏み入れてきました。

「おめでとう。合格だよ」

何が合格なのか。何をもって合格なのか。全く分からない状況にマスターは頬を紅潮させるほど嬉しそうにしていて。


「世界で一番可愛いお人形さんにしてあげる、失敗作ちゃん」


次に意識が浮上した時、私はまるでマスター達と同じような身なりをしていました。どこからどう見てもニンゲンに見えるトリオン兵。そして──

「今までとは違うだろう?」

マスターが声をかけてきて、咄嗟にいたみを思い出して後ずさるとマスターもその後ろにいるニンゲン達も「スバラシイ」と拍手をしました。

「自律精神が上手く働いているね。すでに恐怖は会得しているようだ」
「……?」
「さあ、失敗作ちゃん。心を育てようか」


それからの日々は今までと比べてとても穏やかでした。私は沢山の本を渡されてそれを理解するまで読み解くように指示されました。本の内容は家族愛であったり恋人同士の話であったり。ニンゲンというものは人を愛する心を持っているということを理解しました。そう伝えるとマスターは嬉しそうに私を褒めてくれて、まるでマスターは私のおかあさんのようだと思いを抱くほどでした。


「ニンゲンは、愛するものがいると強くなれるんですね」
「そうだね。そして弱くもなるんだ」

ある日マスターにそう尋ねるとマスターよく分からない返答をしました。言葉の意味が分からず首を傾げるとマスターは酷く楽しそうに顔を歪めていて。

「失敗作ちゃん。おまえが狙うのは親子や恋人の弱いほうだ。愛するものを人質に取られればどんなに強いやつでも簡単に殺せる」

マスターの 言ってることが わからない

「分かるだろ?愛とはどんなものか、おまえは理解が出来たんだから」


そして次の戦争で私は戦場へと駆り出されました。私に出された命令は「強いほう」を殺すこと。そのためにまずは獲物を探す。思ったよりも簡単に見つかった弱いほうの足を潰せば強いほうは弱いほうを背に庇って両手を広げました。

「お母さん!」
「逃げなさい!はやく!」

よわいほうが泣いていました。つよいほうも、泣いていました。それはきっと悲しいから。そして私も酷く悲しみを感じていました。親子の愛は尊くてかけがえのないもので、いつからから私とマスターもそんな風になれる日がくるのかなって焦がれて、憧れて──


わたしは ころせなかった
ころしたくないと おもってしまった


「やっぱりトリオン兵に心を芽生えさせたのは失敗だったか。これじゃあなんのために高いコストを使ったのか」


そして私は小さくて暗い部屋に押し込まれました。



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