トリオン兵は愛を知る | ナノ

File:12 木崎レイジ


私は外の世界が好きだ。タマコマシブから一人では外に出ないと約束している私が唯一1人でも好きに行き来していいと言われているのがこの屋上でユーマとは都合や天気が悪くなければほぼ毎晩ここで話をしている。
今は昼下がりでユーマも本部に出かけているため私は1人で青空を堪能していた。ここは天井も壁もなくてどこまでも続いている。まだまだ見たこともないような、思いもしない世界が広がっていると思うと心が躍る。記憶を取り戻りたら自分の国の景色も思い出せるのだろうか。そしてこの国のように愛おしいと思えるのだろうか。綺麗な世界や優しい人達に触れるたびに私の記憶にもそんな思い出が残っているのか最近では気になるようになっていた。

ぼんやりと空を眺めていると一羽の鳥が私の方へと飛んできたので腕を伸ばせば鳥は私の腕を止まり木にする。白くて綺麗な鳥だ。トリオン兵の私とは違って本当に生きている命。少しすると鳥は綺麗な白い翼を広げて私を置いて飛び立ってしまった。少しだけ、さみしかった。


「? レイジ、何を作っているんですか?」
「リンか。これは餃子だ」
「ぎょうざ?」

屋上を堪能してリビングに戻った私の目に飛び込んできたのはレイジと謎の白い物体達。タマコマシブに来てから有難いことに沢山の食事を口にしたけれどこれは初めて見るものだ。

「この皮に餡を詰めて形を整える。それを焼けば完成だ」

そう言いながらレイジはてきばきとぎょうざというものを形成していく。鮮やかな手つきに続々と作り出されるぎょうざたち。そしてこの形はまるで

「鳥の羽のようで綺麗です」
「鳥の羽…」
「はい。さっき屋上で鳥に出会いましたけどあの子の羽のように綺麗です」

私の言葉にレイジは少し微笑んでくれる。とても優しい表情。レイジもタマコマシブの皆も初めて会った時からとても優しい。まるで本物のニンゲンのように扱ってもらって嬉しいのと同時に申し訳なくなる時もある。私はトリオン兵で食事を摂っても栄養だって摂れない。シオリやキリエが用意してくれた服だって結局2人の好意に甘えて毎日着替えさせてもらって。ああ、ほんとうに。

「私、次に生まれるときはニンゲンになりたいです」

つい、本音が漏れてしまった。
レイジは手を止めて少し驚いたような顔で私のことを見ている。あ、これはいけない。レイジを困らせてしまう。

「えっと。訂正します。忘れてください」
「なんでだ」

私の言葉を聞くとレイジはキッチンへと移動して手を洗っている。ぎょうざとやらを作り終えたのだろう。これ以上レイジを困らせるのも良くないと思い部屋に戻ろうとすると

「まて、こっちに来い」

レイジに呼び止められてしまい私は言われるがままソファーに腰を下ろしてレイジは私の対面のソファーに腰を下ろした。

「おまえはニンゲンになりたいのか?」
「…生きているということが、たまに羨ましいんです」

私の腕に止まった鳥もタマコマシブの皆もこの世界で生きている。私は動いているだけのトリオン兵。体内に内蔵されているトリオンが切れてしまえば充電されない限りただの人形へと姿を変える。それが私の在り方で特に不満なんてなかった。
だけどタマコマシブで沢山の優しさに触れてニンゲンという生き物に憧れを持ってしまっていた。それはなんて傲慢な──

「レイジ、忘れてください。これはエラーです。トリオン兵でしかない私が抱くべき感情ではありません」

私のことをニンゲンのように扱ってくれる人達に囲まれてきっと脳の回路がエラーを起こしたのだろう。生きて空を飛ぶ鳥を見て、私に優しく微笑むレイジを見て。その二つが重なって少しおかしくなってしまっただけ。変なことを言って申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「おまえが何をもって生きていると定義しているのかは知らないが、俺たちにとっておまえは生きているようにしか見えない」
「それは、今のところ生活に支障はありませんが」
「違う。そういうことを言ってるんじゃない。おまえは楽しそうに笑って、遊真たちと仲良くして、美味しそうに飯を食べて、そしてこうやってたまに悩んで。そういうのをひっくるめて生きてるって言うんだ」
「────」

レイジの言葉に返答が出来ない。その言葉はあまりにも衝撃で、あまりにも暖かくて。真っ直ぐと私の目を見てレイジは言葉を続ける。

「確かにおまえはトリオン兵だ。だけど俺たちはおまえがトリオン兵だから構ってるわけじゃない。おまえがリンという存在であることにトリオン兵も人間も関係ないんだ」

レイジに言われて気付いた。私はどこかで「トリオン兵である」ことに負い目を感じていたことに。皆と親しくなればなるほど自分は皆とは違って寂しいと。そんな私にレイジはトリオン兵も人間も関係ないと、真っ直ぐな目をして伝えてくれている。

「レイジ、」
「なんだ?」
「ありがとうございます、私を、リンをちゃんと見てくれて」
「俺だけじゃない。うちのやつらはもうずっとおまえのことをリンとしか見てないぞ」

そう言って立ち上がるとレイジは私の頭をくしゃりと撫でてくれた。レイジの手はとても大きくて、そして優しかった。



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