トリオン兵は愛を知る | ナノ

File:10 迅悠一


タマコマシブに来てから私は沢山のことを経験させてもらっている。例えばみんなで食卓を囲んで摂らなくてもいいはずの食事を摂ったり、シオリとキリエがくれた服を毎日着替えたり。

「おー!リンちゃん卵綺麗に割れるようになったね」
「シオリが教えてくれたおかげです」

以前ヨータローと粉々にしてしまった卵をこのようにちゃんと割れるようになったりと日常生活というやつを満喫している。私はこの国を攻めてきたトリオン兵の一人であるはずなのにタマコマシブの皆は本当に優しく私に接してくれていて幸せな日々を過ごしていた。

「リン。今日は何をやってるんだ?」
「ユーイチ、たまごを割っていました」
「お、上手に割れてるなぁ」

私をここに連れてきてくれたのはユーマとユーイチで、最初に進言してくれたのはユーイチだ。ユーイチは忙しいのかあまり一緒に過ごすことは出来ていなかったけれど、私と過ごせる時はこのように近況を聞いてくる。もしかしたらきぬたさんから何か託されているのかもしれないけどユーイチが私に近況を尋ねるときはいつも優しい表情をしているので私も何も隠すこともなく近況を報告していた。

「遊真と字も練習してるんだろ?」
「うむ。リンはなかなか飲み込みが早い」
「ユーイチの名前ももう書けますよ!」
「ははっ、なんだか父親にでもなった気分だな」
「迅さんわかる!アタシもリンちゃんが我が子のように可愛いよー!」
「わあっ」

シオリが私のことを抱きしめてくれる。暖かくて優しいこの世界が好きだ。毎日こんなに幸せでいいのかなと怖くなってしまうほどに私は満たされていた。

「迅さん最近忙しそうだね?」
「実力派エリートだからなー大人気なんだよ」
「なるほど。アンヤクってやつですな」
「はっはっは、小南だな遊真に変な言葉を教えたのは」

ユーマが言ったようにユーイチは確かに忙しそうだ。そしてユーイチがタマコマシブに姿を現すと言葉にしてもしなくても皆がどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出すのも知っている。人柄や信頼があるのだろう。

「ん?なんだリン。ぼんち揚げ食うか?」
「はい!たべます」
「あ、ご飯前だからあんまり沢山食べちゃダメだよー」

シオリの忠告に思わず嬉しくなってしまう。私はトリオン兵なのだから食べ物から栄養は取れず満腹というものも存在しない。だというのに私をまるでニンゲンのように扱ってくれるのが嬉しい。ここにいるとまるで本当のニンゲンになれたようなそんな錯覚すらしてしまう。
ユーイチからぼんちあげを一つもらって口へと運ぶとそれは固くて、だけど美味しくてまさにクセになるというやつなのだそうだ。

「美味いだろー?」
「おいひいです!」
「それにしても本当にリンは美味そうに食べるよな。与え甲斐があるってもんだ」
「うんうん!作り甲斐もあるよー!」

ユーイチもシオリもうんうん、と満足気に頷いているしユーマも腕を組んで二人と同じようにうんうん、と相槌を打っている。そんな三人を見て私も真似してうんうんと頷けば三人は楽しそうに笑ってくれた。

記憶はまだまだ戻っていない。それでも私は今が一番幸せなんじゃないかと確信している。毎日楽しくて新しくて幸せで。

「ユーイチ」
「どうした?リン」
「私をタマコマシブに連れてきてくれてありがとうございます!」

こんなに楽しい毎日を過ごせるなんて夢みたいで、そんな日常に連れてきてくれたユーイチには感謝しかない。私の言葉にユーイチは少しだけ虚を突かれた顔をした後

「……どういたしまして」

いつものように暖かく、本当に優しい笑顔を向けてくれた。



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