トリオン兵は愛を知る | ナノ

File:9 烏丸京介


「すみません、ウソです」
「あーー!!とりまる、また騙したわね!?」

もはや日常茶飯事となった会話が響き渡る。またしてもトリマルがウソをついてキリエがそれに騙されたらしい。トリマルはウソをつくのがとても上手だから騙されるのは仕方がないと思う。

「トリマルはどうしてウソをつくんですか?」

純粋な疑問を投げかけるとトリマルは顎に手を当てて少し考えるような素振りを見せる。トリマルは別にキリエや他の人に害を与えようとウソをついているわけではない。それは見ていて分かるのだけど、じゃあトリマルは一体何を思ってウソをついてるのか気になったのだ。

「そうだな…あまり深く考えたことはないが場を和ませるためにウソをつくことはあるな」
「場を?」
「ああ。ウソ…というより冗談は緊張した空気を解すこが出来ることもある。まあ、俺の場合は大体が悪ふざけだったりもするがな」

真似しないほうがいいぞ、とトリマルは優しい声で私を諭す。確かにトリマルとキリエのやり取りを見ていると楽しそうだと感じる。悪ふざけ、ということがどういうことなのかあまり分からないけれどきっとトリマルとキリエの信頼関係がしっかりしているからこそ成り立っているのだろう。

「…おまえはウソはつかないのか?」
「はい。トリマル達にウソをつく必要性を感じていません」
「そうか。だかなリン。もしかしたらウソをつかなければならない時がくるかもしれない。自分を守るウソか他人を守るウソか。同じウソでもその本質は全く別物だ」
「? ウソなのに、別物なんですか?」
「そうだ。自分が何のためにそのウソを口にするのか。おまえならちゃんと答えが出せるだろう」

トリマルが言っていることはよく分からないけれどその言葉からは確かに私への信頼が感じ取れた。自分を守るウソ。他人を守るウソ。そして悪ふざけのウソ…?ウソと一言で言っても色々な種類がある。ニンゲンはいつも沢山のことを考えて考えて、考えたうえで行動をしているんだと感心する。

「なーーーに偉そうなこと言ってんのよとりまる。あんたのはほとんど悪ふざけじゃないの」

昼食の片付けを終わったキリエが私達に合流する。どうやら私とトリマルの会話を聞いていたようで不満気な声を出している。

「小南先輩。心外ですね、俺は小南先輩のためを思ってウソをついてるのに」
「はぁ!?どうせそれもウソなんでしょ」
「…………」
「な、なによ…そんな真剣な顔して…」
「………………」
「……え、ほ、本気?」
「まあ、ウソですけど」
「うがーー!!」

そして毎度お馴染みの光景に思わず笑みが溢れる。なるほど場を和ますとは的を得た表現だ。キリエは本気で怒っているように見えるけれどこの日常は確かに好きだと胸を張って言えると思った。


***


「ユーマもウソをつくことがありますか?」
「む?なんの話だ?」

その日の夜、屋上に移動するといつものようにユーマの姿を見つけてその隣へと移動する。
暫く他愛のない話をして夜空を眺めて。いつも通りゆっくりのようで、でもユーマと過ごしているとあっという間の夜を堪能していた時に私はお昼のトリマルとの会話を思い出してユーマに伝えた。

「確かにとりまる先輩はよくウソをつくけど嫌なウソはつかないな」
「はい。トリマルは悪ふざけって言ってました」
「悪ふざけ。ふむ、的を得た表現だ」

ユーマは楽しそうに笑いながら私と同じような感想を口にする。トリマルは確かにウソをつくけれど、それは嫌なものではなく今もこうして私やユーマに笑顔を与えている。…キリエは怒っていた気がするけど…

「おれはあんまウソは好きじゃないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。おれ、ウソが見抜けるから」
「見抜ける…?」

ユーマの言葉の意味がよく分からず首を傾げる。確かに最近では私もトリマルのウソを半分くらいは見抜けるようになってきたけれどユーマは人のウソを見抜くのが上手いということだろうか。

「だからリンがおれ達に一度もウソついたことないのも分かってるぞ」
「…? はい。私はユーマ達にウソをつく気はありません」
「いや、もしかしたらリンのウソは見抜けないのかもしれんな。よし、リン。何かウソをついてみてくれ」
「え!?」

突然そんな無茶振りをされても困る。私はユーマ達にウソをつくつもりなんてないし、そもそもウソってどうやってつくものなのかもよく分からない。ユーマが求めているのはトリマルの言っていた他人のためにつくウソ、なのだろうか…?

「ウソとは思っていることと逆のことを言えば成立しますか?」
「多分な。リンがあり得ないって思うことを試しに言ってみてくれ」
「…あり得ない、じゃあ……」

それならぴったりの言葉がある。だけどウソと分かっていても口にするのは少し躊躇われた。

「ユーマが、」
「うん?」
「ユーマがきらい、です」

それはあり得ない言葉だ。私はユーマが好きだ。ユーマもきぬたさんもタマコマシブの皆も好きで嫌いだなんてあり得ない。だというのに私の言葉を聞いたユーマは目をぱちくりとさせて何も答えてくれない。……え!?

「ユーマ!う、ウソですよ?分かってますか!?」
「……分かってる。初めて見えた」
「見え…?」

いまいちよく分からないことを言うユーマに首を傾げるもののちゃんとウソだと分かってもらえたようでなによりだ。やっぱりウソはつくものじゃない。万が一ウソと信用してもらえなかったらと考えると怖くて堪らないから。
そんな私の不安をよそにユーマはどこか楽しそうに伸びをした後その手をそのまま頭の後ろで組んだ。

「いやー、リン。おまえウソ下手だね」
「やっぱり下手でしたか?」
「うん。おれじゃなくてもバレバレだと思うぞ」

ユーマは楽しそうに笑いながら私の嘘の下手さを伝えてくる。自分でも向いていないと思うしユーマが楽しそうなのが嬉しくて、そのままユーマに釣られて笑ってしまう。
だけど一つ気になっていたことがあった。あの時のユーマの顔がどこか寂しそうだったことだ。

「ユーマはウソをつかれるのが好きじゃないと言いましたよね?」
「ん?そうだな。まあ大体は流せるけど」
「じゃあ、私はもうユーマにはウソをつきません。さっきのが最初で最後のウソです」

ユーマはウソをつかれるのが好きじゃないと言ったけど、その時の表情はどこか諦めているようで。そんなユーマの表情は初めて見たしあまり見たくないと思った。私がウソをつかないことでそんな表情をさせないで済むのなら容易いことだ。
私の言葉にユーマは珍しく驚いたような顔をしている。

「えっと、ユーマ?」
「ありがとな、リン」
「え?何がですか?」
「リンがリンで良かったってこと」

ユーマがお礼を言った理由はよく分からなかったけれどユーマの嬉しそうな表情と上機嫌な姿を見ればそんなこともどうでも良くなってしまう。私はまだトリマルみたいに自分のためとか他人のためとか、ウソを使い分けることは出来ない。でも出来るようになったとしてもユーマにだけは嘘をつかないと心に誓った。



[ 12/30 ]


back


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -