トリオン兵は愛を知る | ナノ

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思い出した。いや、ロックが解除されたんだ。
私は量産型トリオン兵の一人だった。私達の使い道は主に戦闘用で私達トリオン兵が撹乱している間にマスター達が戦う力のないニンゲンを捕獲またはトリオン器官を奪うのが主な戦闘方法だった。
私達は使い捨てで活動限界を迎えると一人でも多く巻き込んで自爆をするシステムが組み込まれている。でも…

「リンちゃんは確かに一度活動停止したんだよね?それを鬼怒田さんが直したって聞いてるけど」
「はい。私は破壊されてその際全ての活動が一度停止しています。きぬたさんが直してくれなければこうして話すことも出来ませんでした」
「でも自爆はしてない…リンちゃんには自爆システムは付いてなかったのかな」

少しだけ記憶を取り戻した私はユーマ達と共にタマコマシブに残っていたシオリとキリエと合流した。私の思い出した記憶は自分が量産型トリオン兵の一人であることと私達には自爆システムが搭載されていたということ。しかも私は自爆してないので何が何だか分からないという内容だった。

「こいつの言っていることは本当だろう。一緒に攻めてきた人型トリオン兵は確かに残らず自爆しているからな」
「そうね。唯一自爆しなかったのがリンで慎重に回収するようにって連絡が入ったもの」
「リンはウソついてないよ」

レイジとキリエには私の話に思い当たることがあるらしく、ユーマは私の言葉を肯定してくれる。確かにウソは一切ついておらず思い出せた記憶を包み隠さず話しているけれど信用してもらえるのは嬉しい。そしてそんな皆にだからこそもう一つ思い出したこともちゃんと伝えようと思う。

「私に自爆システムが付いていないかは分かりません、が。私は失敗作でした」
「失敗作?どういうことだ?」
「私は他のトリオン兵に比べて攻撃手段、反応速度、移動速度。その全てが劣っていました」

量産型といっても必ず成功作が作り出されるわけではない。私のような「失敗作」が生まれることだってあった。使えないと判断されたら即処分されトリオンを再利用するのが私達の在り方だ。

「処分が決まった私にあるマスターが言いました。こいつを使ってニンゲンもどきを作ろうと」
「ニンゲンもどき…ってなんでそんなことを?」
「それ、は……」

シオリは当然の疑問を口にするけれどその問いに対する答えを私はまだ引き出せていない。思い出せたのはここまでだ。マスターは確かに私で「ニンゲンもどき」を作ろうとした。でもどうしてそんなことをしたのかは分からない。いや、ちがう。その記憶にもロックがかかっているんだ…

「……ごめんなさい、私が思い出せるのはここまでです。でも、記憶はあると思います。思い出せたらすぐ言います」

再びごめんなさい、と頭を下げる。少しずつしか記憶を引き出せないのがもどかしい。どうしてマスターは私を処分しなかったのだろう。どうしてトリオン兵をニンゲンもどきになどしようとしたのだろう。思い出したい。だけど思い出すのが怖い。この記憶は私にとってあまりいい記憶ではないのかもしれない。それでも、お世話になってるタマコマシブの人達の力になれるのならやっぱり全てを思い出したいと思った。

「ニンゲンもどきか…」

レイジが小さく呟いて、そしてそのまま言葉を続ける。

「お前がどうしてそんな風に呼ばれて作られたのかは分からないが自分のことをそんな風に呼ぶのはもうやめろ」
「え」
「そうだよ!リンちゃんはリンちゃんなんだから。アタシ達にとってリンちゃんは大切な友達だよ」
「レイジ、シオリ」

私はただの量産型トリオン兵の一人でしかも失敗作だ。なのにそんな私に二人は優しい言葉をかけてくれる。

「俺から見ればリンは十分人間らしいけどな」
「そうよ。トリオン兵とか人間とかあんま気にしなくていいんじゃない?うさみも言ってるけどあんたはあんたでしょ!」
「トリマル、キリエ」

トリマルもキリエも量産型トリオン兵ではなく私を見てくれている。ユーマの付けてくれたリンという名前と共に私の存在を許してくれている。

「おれもしおりちゃん達に賛成。リンはリンだからな。正直おれはそれだけ分かってれば十分だ」
「ユーマ」

ユーマの、皆の視線が優しくて暖かい。トリオン兵として生まれて。きっと戦って自爆するためだけに作られたただのトリオン兵だった私がこんな幸せを享受していいのだろうか。嬉しくて、胸の辺りが苦しくなるような気さえする。

「ユーマ、レイジ、シオリ、キリエ、トリマル」

大切な人達の名前を一人ずつ噛み締めるように呼んでいく。

「ありがとうございます、わたし、しあわせです!」

心の底から感謝と愛情を込めて言葉を口にすると以前のようにシオリとキリエは私を抱き締めてくれてレイジとトリマルとユーマはとても優しい表情で私達のことを見ていた。



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