◎ 似た者同士 / 烏丸
俺の好きな人は好きな人がいる相手に恋をしている。
「そんなに見てるとバレますよ」
「えっ。…そんなに見てた?」
「穴が開くくらいには、まあ」
俺の言葉に俺の好きな人──リン先輩は困ったように笑う。
八の字になった眉毛も、恥ずかしそうに少し頬を染める表情も全部、ぜんぶ好きだ。
「京介はさぁ…」
「何すか?」
「やっぱり、ゆりさんみたいな人が好き?」
林藤ゆり。ボスの姪であり、…リン先輩の好きなレイジさんが好きな相手だ。いつも冷静で落ち着いているレイジさんはゆりさんを前にすると挙動不審になる。どんな奴でもレイジさんの好きな相手がゆりさんだと気付くだろう。
そう。どんな鈍感な奴でも、な。
「まあ、綺麗だなとは思います」
「分かる…!しかも優しいし頼りになるし嫌なところが一つもないんだよね、これが」
分かる。
「……好きになっちゃうのも、そりゃあ、しょうがないってやつだよねー」
分かる。
俺もレイジさんに対してそう思っているから。
「どうでしょうね。人それぞれ好みはありますし、好きになったらきっとその人の全部が好きになりますよ」
実はちょっと見栄っ張りですぐ誤魔化す癖があるところも。涙腺が緩くてテレビのお涙頂戴演出で毎回泣いてるところも。レイジさんの前で格好つけようとして盛大にやらかしたところも。…俺のことをなんとも思ってないところも。
俺から見ればぜんぶ可愛いし、ぜんぶ好きなんだけどな。
「えー?そんなもん?京介に好きになってもらえる人は幸せものだね」
「そうでもないですよ。その人鈍感なんで」
「え!?好きな人いるの!?」
誰々!?と目を輝かせて詰め寄ってくる俺の好きな鈍感な人。リン先輩ですよ、って言えばどんな顔をするかな。それを言ったら最後。きっと酷く困った顔をしてその瞬間からこの人は俺に近付かなくなるだろう。分かる。だって俺も同じだから。
──好きな人以外からの想いはただただ困るだけだ
「でもそっかぁ。私達やっぱりちょっと似てるね」
「似てる?」
「うん。だって、私の好きな人も鈍感だもん」
だけど好き。
まるで顔にそう書いてあるかのように頬を染めて俺の好きな人は笑う。
「…そうですね。かなり似た者同士だと思いますよ、俺たち」
だって俺も。
こちらを向く事はないと分かっていてもどうしてもリン先輩のことが好きだから。
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