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  師匠の私情 / 出水


見るだけならまるで粘土をこねているようなちょっと間抜けなように見えるこの作業は実は超難しいのである。
私の両手には通常弾と通常弾がありそれをなんとか合成弾にしようと試行錯誤している。目の前でにやにやと笑いながらそれを見ている合成弾のエキスパートはこれを数秒で完成させるのだから変態だと思います。

ボンッという音と共に無くなる両手と『活動限界』という電子音。本日十回目の暴発である。

「あーーー!また手が吹っ飛んだー!」
「なんだ?そういう作戦か?」
「ただの自爆です!」

ばかー!と私を揶揄っている男、出水に八つ当たりをするもののここは太刀川隊の訓練室でありお互いトリオン体なのだから痛みも何もない。つまりグーパンチを食らわせても出水にはノーダメージってこと。

「上手くいかない…出水はあんなに簡単に出来るのに…」
「そりゃリンとは違うし」
「コツを!コツを教えてください出水変態!」
「それが人に教えを乞う態度か!」

出水は私が合成弾を覚えたいと伝えると「なら見てやろうか?」と快く受け入れてくれたものの本当に「見ている」だけでコツも何も教えてくれない。私の手が暴発で飛んだり、弾が色んなところに飛散するのを笑って見ているというなんとも悪趣味な楽しみかたをしている。

『そろそろ時間だよー』

柚宇ちゃんの声が聞こえて私達は訓練室を出ることにした。はぁ、今日も会得出来なかったなぁ。なかなか会得出来ない自分に落ち込みを隠せないでいると出水は私の背中をバシッと叩いた。

「わ!なに!?」
「一朝一夕で出来るもんでもないだろ。時間が空いてる時は見てやるからまた来い」

冷たいのか優しいのかよく分からない出水に対して嬉しいのか腹が立つのかよく分からない表情を作れば「なんだその顔はー」と頬をつねられるのだった。


「はぁー」

ラウンジに足を運んで自販機でジュースを購入する。一口それを含んで大きな溜息をつけばどっと疲れが襲ってくる気がした。

「あれ?リンちゃん元気ないね。どしたの?」
「犬飼くん。本日は手が十回ほど吹っ飛びましたー」
「何それ面白そう」

声をかけてきたのは二宮隊の犬飼くんで私の失態を本気で面白そうだと返す男だ。犬飼くんに乗せられて合成弾を会得したいのだけど上手くいかないと溢せば犬飼くんは思ったよりも真剣な表情で答えてくれる。

「合成弾かぁ。確かに使えたらかなり戦闘の幅が広がるよね」
「やっぱり?でも難しくてさぁ…二宮さんも合成弾凄いよね」
「そうだね。良かったら二宮さんに取り次いであげようか?」
「へ?」

思いもよらない言葉に素っ頓狂な声が出てしまう。確かに二宮さんも合成弾の名手で教えを乞うに相応しい相手だろう。…二宮さんに内緒で習って合成弾を会得して出水にサプライズ合成弾を食らわせて「すげー!おまえはてんさいだ!」なんて言わせるのもいいかもしれない!

「ほんと?じゃあ──」
「浮気はやめてくださーい」
「うおわ!?」

がばっ、と声の主である出水は突然後ろから抱き締め…というかもはやは羽交い締めなのかってくらい力強く犬飼くんから私を引き離した。あまりにも突然のことで驚きを隠せずにいると目の前にいる犬飼くんはそれはそれはもう、とっても楽しそうに笑っていて……もしかして嵌められた?

「ったく、おまえは目を離すとすぐこれだ。他の男に尻尾を振るなよな」
「なにその言い方!?なんか悪女みたいじゃん私が!」
「いや、ちょろい」
「ちょ……!?」

じたばたと暴れても出水は全然私を離す気はないらしい。諦めて力を抜けば出水もやっと力を抜いてくれたけど…未だに羽交い締めのような状態でなんだか居た堪れない。

「犬飼。おまえも二宮さんに取り次ぐつもりなんてほんとはねーんだろ」
「あ、バレた?出水くんの姿が見えたからつい」
「良い性格してんなほんと……」
「まっ、え!?」

犬飼くんの突然の裏切りにショックを受けている私を出水はずるずると引きずってラウンジから連れ出してくれた。ひどい、弄ばれた。…これがちょろいってやつか!?

「リン」
「…なに」
「そのうちちゃんと教えてやるから、うろうろすんな」
「え!ほんと!?」

やっと解き放たれた体をくるりと返すと出水はちょっと困ったように笑って頷いてくれた。
出水がちゃんと教えてくれるなら私が合成弾デビューをするのも近いはず!そう期待に胸を膨らませて私はご機嫌にスキップなんてしてしまうのだった。


「あれは暫くは教えてもらえないだろうなぁ」
「? 何の話だ」
「二宮さんの師匠が私情を持ち込んでるって話」



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