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  俺の獲物 / 隠岐


見た目は悪くない。むしろかなり気を遣ってるほうだし人当たりもいい。頭も悪くないし手先だって器用だ。

「なのに何で私はモテないの?」
「そういうとこやろなぁ」
「辛辣!!」

私にそんな正直な感想を投げつけてきたのは同じ狙撃手の隠岐くんである。物腰は柔らかいくせに何故か私には結構辛辣な彼はまあモテる。凄まじく整った顔面をしていながら自分ではモテないとか寝ぼけたこと言ってるけど隠岐くん目当てで生駒隊が出る試合の時は客席の埋まりがいつもより良いことを私は知っている。

「そういえば隠岐くん。わたくしちょっと耳にしたんですけども」
「ん、なにを?」
「雨取さんをかわいい子は撃ちにくいって言ってたそうで?」
「ああ。言うたよ」

なるほど真実だったんですか。そりゃあ茜ちゃんが「わたしも撃ちにくいって言われましたー!」と嬉しそうに報告してくるわけだ。そうやってこの男は隙あらば女の子を落とそうとするんだからタチが悪い!

「ふむふむ。ところでこの前の生駒隊と諏訪隊との試合で隠岐くん、私のこと問答無用でカウンターで撃ち抜いたよね?」
「一発やったなぁ」
「一発やったなぁ、じゃないわ!なんで!?私めっちゃ撃ちにくいはずじゃんその基準なら!」
「リンだけは俺が撃ち落とさなあかんって思ってるからなぁ」
「いやなんで!?」

理不尽極まりない言葉にツッコミを入れるもののあははーといつも通りの緩さで流されてしまう。くそ、これだからイケメンは。笑っていれば許されると思うなよ…許しちゃうけど!

「もういいでーす。意地悪な隠岐くんなんて放っておいてラウンジに行くもんねー」
「俺も行こ」
「えー…奢ってくれる?」
「はいはい、ええよ」

私の無茶振りとか悪態にも全く動じずに隠岐くんはいつも通りなんだかんだ優しく接してくれる。はぁ、この男もいつか彼女を作るんだろうなぁ。今でもいないのが不思議なくらいだし。もし出来たら「リン、俺この後デートやから」なんてドヤ顔で言ってきそうなのが癪に触る。隠岐くんよりも先に彼氏を作ることを目標にしているのだけど何故こんなにも上手くいかないのか…

「あっ」

ラウンジに着くなりある人物が目に入る。私は一目散に走り抜いてその人物にタックルの如く思い切り飛びついた。

「うお!?危ねえじゃねえか!」
「諏訪さんー!!私のこと可愛いって言ってええ!!」
「はぁ?何だ急に」

私が飛びついたのは面倒見のいいお兄さんとして認識している諏訪さんだ。諏訪さんはこう見えて優しい。すごく優しいことを私は知っている。なので私を可愛いって言ってくれるはず!可愛い不足なんだ!褒めろ私を!!

「可愛いって言ってくれるまで離さないから!」
「あー?んだよ、可愛い可愛い。可愛いリンはさっさと離れろ」
「雑ぅ!」
「すんません、ウチのが迷惑かけて」

ほら、離れ?と隠岐くんが私を諏訪さんから引き剥がす。諏訪さんの可愛いコールは大変雑だったけどまあ良しとしましょう。

「隠岐、可愛いくらいお前が言ってやればいいじゃねーか」
「いやぁ、言いにくいですわ」
「ほらぁ!隠岐くんは私に意地悪なんですよ!」
「…へぇ。隠岐もそういうとこあるんだな」

何を察したのか諏訪さんはにやにやと楽しそうに隠岐くんを見つめている。は?なに。全然分からないんですけど。隠岐くんが私に意地悪なことしか分からないんですけど!?

「誰にも譲る気ないんで」
「何を?」
「リンのポイントを」
「ほらぁ!次も撃とうとしてるじゃん既に!」

もー次はやられないからね、と言えば逃さへんよ?なんて憎まれ口を叩きながら私の後を隠岐くんはついてくる。私達はなんだかよく分からない関係だけどまあ今はこのままでいいかと思っている。…隠岐くんに彼女が出来るまでだろうなぁ。
モテ男め。間違っても惚れてしまわないように気をつけようと私は今日も心を強く持つのだった。


「あれだけ近くで威嚇してる奴がいれば男なんて寄ってこないわな」



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