「え?マジで付き合ってないの?嘘でしょ」
「付き合ってないぞ。俺なんて相手にもされてないよ…」
「でも権八郎、あれからほぼ毎回その女と昼は過ごしてるじゃねーか」
「そーよそーよ!アタイ達を差し置いてヒドイッ!裏切り者!リア充爆発しろ!!」

善逸と伊之助は俺が凛さんと本当に付き合ってないのかとよく聞いてくる。主に善逸がだが。凛さんと初めてちゃんと話したあの日から俺はほぼ毎日凛さんと昼休みを過ごしている。凛さんは俺に言ってくれた通り昼休みにあまり予定を入れないようにしてくれていて教室で待っていてくれるようになったのだ。
凛さんとの時間は本当に穏やかで。大体は中庭へ移動して喋りながら昼食となるのだが、手伝いをお願いされている時は一緒に凛さんと手伝いを消化するようになっていた。元々凛さんが有名なこともあってたった二週間で俺も「第二の凛さん」として学校内に知れ渡っているという状況だ。 

今日も今日とて俺と凛さんは昼休みだというのに図書室の裏部屋で古くなった本の修繕をしている。昼休みになりいつも通り凛さんを迎えに行くと「今日はお手伝いを頼まれまして」と言われたので二つ返事で手伝いますと申し出たのだ。黙々と古本の修繕を進める。俺はあまりこういった作業が得意じゃないけど、凛さんはどんどん古本の修繕を終えていく。器用なんだな。……手、綺麗だな。
じっと凛さんの手元を見つめているとその視線に気付いた凛さんが俺と目を合わせて少し困った笑顔を向けてくる。

「炭治郎君、本当にいいんですか?私が頼まれたことなので炭治郎君は折角のお昼休みを不意にしなくても…」
「え?全然不意じゃないですよ!凛さんと一緒にいれるだけで嬉しいですし!」
「そ、そう、ですか……」

珍しく歯切れの悪い凛さんの声にもしかして嫌がられているのかと心配になる。そもそも毎日押しかけているんだ。凛さんは優しいから断れないだけで本当は嫌だったら…!?

「も、もしかして!嫌でしたか!?」
「え?」
「俺、凛さんに押しかけてついて来て…あの、嫌だったらいつでも言ってください…!」

そりゃあ嫌と言われたら寂しいけど…!
でももしも嫌がられているのなら無理強いはしたくない。俺は凛さんと一緒にいるのが楽しいと思っているけどそれは俺だけなのかもしれない。どんどん不安になる俺に凛さんは慌てたように両手と首を横に振っていた。

「嫌なんてとんでもない!炭治郎君と一緒にいるのは楽しいです!」
「本当ですか…!?」
「はい!炭治郎君こそ、私と一緒にいるのが嫌になったら遠慮なく言ってくださいね?」
「そんなこと!絶対ありえません!」

心の底からの本音だった。凛さんと一緒にいれない時間を嫌だと思うことはあっても一緒にいたくないなんて思うはずがない。
だけど凛さんはどこか寂しそうな笑顔を浮かべてしまう。どうして、そんな顔をするのだろう。

「…ありがとうございます。炭治郎君は優しいですね」
「それを言ったら凛さんのほうが優しいですよ。そうだ、凛さんはどうしてよく人助けをしているんですか?」

それこそこの人は自分よりも他人を優先している気がしてならない。昼休みに予定を出来るだけ入れなくしたのも自分のためではなく「俺のため」なのだろう。俺がいなければ凛さんは今でも昼休みは誰かの手助けを毎日してたに違いない。人助けが好きなのだろうか?確かに凛さんは疑いようのない善人だとは思うが…

「………罪滅ぼし」
「え?」
「いえ、そうですね。一人でも多くの人の助けになりたいんです」

お節介さんですよね私、と凛さんは照れたように笑う。お節介だなんてそんなこと全然ない。凛さんに救われている人が沢山いる。それはこの学校内は勿論だし、きっと今も続けている…鬼狩りでも同じだ。鬼狩りの話をすると凛さんは話を切り上げたり逃げたりしてしまうので最近はあまり話せていないが、どうして凛さんはずっと人のために動いているのだろう。もっとこう。凛さんがしたいことを──

「そうだ!凛さん、今度の休み空いてますか?」
「え?えっと…夕方までなら」

夕方まで、という理由については今日はとりあえず飲み込もう。俺は凛さんの返事によし!と意気込んで言葉を続ける。

「俺と出かけませんか?どこか凛さんが行きたいところがあったらどこでも連れて行きます!」
「え、えぇ!?い、行きたいところなんてそんな……」

と、そこで凛さんは言葉を切ってしまう。なるほど。あるんですね、行きたいところ?

「遠慮しないでください!俺もちゃんと下調べするので!」

自慢ではないが俺は遊び慣れていない。だからこそどこへでも連れて行ける自信があるのだ。だってどこと言われても調べに調べようと心に決めているから。
凛さんは少し恥ずかしそうに目を伏せた後、本当に良いんですか?と口を開く。

「もちろん!」
「……じゃあその、ゲームセンターに行ってみたい、です」

まさかの選択にへ?と声を上げてしまう。それがお気に召さなかったのか凛さんは恥ずかしそうに顔を赤くしていて、その表情はとても珍しい。

「ゲームセンター、ですか?」
「うっ。行ったことなくて……くれーんげーむってやつをやってみたいです!」

腹を括ったのか凛さんは俺を真っ直ぐと見据えてそんな可愛らしい宣言をしてくる。いや、いくらでもやってくださいクレーンゲーム…!

凛さんは夜に鬼狩りをしている。それが毎日なのかどうかは聞けていないがもし夜遅くまで出歩いていたら朝から誘うのは迷惑だろう。俺は13時に駅前で凛さんと待ち合わせを約束してその日までクレーンゲームの動画を見る毎日を送るのだった。




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