俺は前世で鬼と戦っていた。前世と同じく鼻も聞くし運動神経も特に悪いほうではない。それこそ中学までは善逸と伊之助と一緒に剣道道場にも通っていたんだ。流石に本物の刀を振るうにはそれ以上の鍛錬が必要になるとは思うけれど頑張りたいと思っ──

「え!?て、手伝えないんですか…!?」
「当たり前です!炭治郎君、この時代でも鬼は変わらずに危険な存在なんですよ?一般人である炭治郎君を巻き込むことなんて絶対に出来ません」
「でも、それじゃあ凛さんはどうして鬼と戦っているんですか?」

凛さんはどこからどう見ても普通の女子高校生だ。確かにあの日、俺の目の前に現れた凛さんは刀を構えていて凄く格好良くて──って違う、それは俺の感情の話だ。現実として凛さんは鬼を倒していた。彼女のような普通の女の子が戦っていて、俺が戦えない道理が分からない。

「私達はそういう存在なんです。大丈夫、炭治郎君に見られてしまった通り私達は強いですから!」

だから私達に任せてください、と凛さんは優しく笑ってくれる。俺はそれに素直になんて全然頷けない。鬼はまだ存在している。その鬼と戦っている人がいる。それを知っているのに見て見ぬ振りなんてしたくなかった。
そんな俺の様子に気付いたのか凛さんは困ったように眉を下げて

「炭治郎君。自分に何か特別な能力があるなーって思ったことが一度でもありますか?」

そんなよく分からないことを言ってきた。

「能力…?えっと…鼻が人より効きますけど…?」
「鼻?うーん、多分それは関係ないと思うんですけど…例えばですね」

凛さんが人差し指を立てる。なんだろう、と首を傾げると凛さんの人差し指の先から突然炎が現れる。凛さんの指先は着火マンを連想させるように火を灯していて手品か何か分からないその状況に数回瞬きをすると凛さんはその炎を消してしまった。

「私は酸素さえあればどこにでも火をつけることが出来ます」
「え!?」
「他にも筋力の強化や簡単な治癒。そういうものが可能です」
「……なっ、」

そんなことが、と言いたかったけれどふと。凛さんと初めて会った時のことを思い出す。凛さんが触れた俺の傷は確かに塞がっていた。簡単な治癒──あれは凛さんの「特別な能力」だった、ってことなのか。

「でも、どうしてそんな能力を…?」
「こんな能力、持っていない方が真っ当なんです。炭治郎君が普通の人間で良かった」

その物言いに違和感を覚えて凛さんの顔を見るといつも通りの優しい微笑みを浮かべていて。だけど俺は鼻が効くから。凛さんから嫌悪感のような嫌な匂いがしたことに気付いてしまっていた。

「凛さ……」

凛さんに声をかけようとして予鈴のベルが鳴った。それを聞くと凛さんは椅子から立ち上がって校内に流れる音楽をoffにした、

「5限目始まっちゃいますね。戻りましょう」

テキパキと撤収の支度をする凛さんに続いて俺も座っていたパイプ椅子を畳んで壁に立てかける。もっと話したかった。全然足りない。それは、鬼という存在ついてもだったが俺はもっと凛さんのことを知りたいと思っている。

「凛さん、また昼休みに会いに来てもいいですか?」

俺の申し出に凛さんが首を傾げる。

「まだ何か聞きたいことがありましたか?」
「えっと、それ以上に凛さんともっと話したいなって思って」

そんな正直な言葉に凛さんは数秒固まった後、とても嬉しそうな笑顔を浮かべてくれる。それはあまりにも可愛らしくて、

「はい!じゃあお昼休みはあまり予定を入れないように努力しますね」

俺はもう無我夢中で、

「…はい!毎日会いにきます!」

まるでいつもの善逸のように凛さんに迫ってしまっていた。
その後、これからも会う約束をしてきたよと善逸と伊之助に報告すると善逸に頭を噛まれてしまったのでした。痛い!



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