「凛ちゃんご機嫌だねぇ。たんじろーくんと上手くいった?」
「なっ!?ななな、なにを……っ!?」

童磨さんの言葉に凛が大袈裟なくらい反応する。は?たんじろー?たんじろーってあの竈門炭治郎!?

「ご、ご機嫌ですか?私」
「お前ぇ、鼻歌歌ってたぞぉ」
「スキップもしてたよぉ」
「そ、そうですか……」

確かに今日の凛はご機嫌で見ていて面白かったわよ。どうやら本人は無自覚だったみたいだけど鼻歌もバッチリ歌ってたしね。いやでも!

「え!?凛、本当にアイツと付き合うことになったの!?」

私と凛とあの竈門炭治郎は同じ学校の生徒だ。竈門が凛に猛アタックしていたのは周知の事実だろう。アタシは別に凛が幸せそうならそれで良かったけど相手が竈門っていうのなら話は別。アタシ、アイツ嫌いだし。

「あ、えと……は、はい…」

だって言うのに凛は頬を染めて心の底から幸せそうにそう言うもんだから何も言えないじゃない…!

「竈門ぉ?誰だぁ」
「アイツよ!前世でお兄ちゃんの頚を斬ったクソ餓鬼!」
「あぁー、なんだ。アイツが凛落としたのか。面白れーなぁ」
「もう!お兄ちゃんは優しくなりすぎなのよ!」
「良いじゃねぇかぁ。凛が嬉しそうだしなぁ。お前、凛好きだろぉ?」
「好きよ!!」

お兄ちゃんは前世のことを全く気にしていない。多分、お兄ちゃんは元々こういう人なんだ。前世ではあまりにも境遇に恵まれず搾取されるばかりの日常がお兄ちゃんを壊してしまったがこの時代ではとても穏やかで、それこそ調子が狂ってしまうほど。まあどんなお兄ちゃんでも世界で一番好きなんだけど!

「堕姫ちゃん、炭治郎君のこと嫌いなの…?」

なんて。悲しそうに聞いてくる凛に面と向かって嫌いよ!と言えなくなったあたりアタシも大分丸くなったと思う。

「……嫌いじゃないわよ」

無論、好きではないけど。
アタシの返答に凛はホッとしたように顔を綻ばすのだった。

アタシ達の中で誰よりも自分を責めて虐め続けていた凛。この子の前世は悲惨なもので、アタシなら裏切った街を潰して精々していただろう。なのに凛は前世だけでは飽き足らず今世でも罪の意識に潰されそうなほど償って償って。身を削る凛を見ていると苛々したわ。アンタ、そこまでするほど悪いことしたの?って。そう聞く度に凛は困ったように笑うのよ。こんなに自分の罪と向き合ってるこの子が贖罪者で、この子の親を殺した屑はきっと人間として生きてると思うと反吐が出るわ。神様ってもんがいるならせめて心の底から悔いているこの子くらい赦して幸せにしてあげなさいよ。そんなことを思ったことも──あったかもね。


「で?アンタは前世でアタシ達鬼を殺したことと向き合えたってわけ?」

だからこそ。
凛を幸せにしたいと願うのなら前世と折り合いを付けれてない奴になんて凛を託したくなかった。コイツは前世で鬼殺隊としてアタシ達鬼を斬り殺した。それに何も感じないのかと。以前こう聞いた時、竈門は顔を真っ青にして絶句してたわ。鬼と人。そんなに違いがあるって言うの?

「うん。俺は確かに前世では鬼であった謝花さん達をこの手で斬った」

そこには以前の竈門の姿はなかった。

「でも、もし今世でも俺の大切なものを傷付けると言うのなら俺はその相手と戦う。鬼も人も関係ない。俺は守りたい人のためなら迷わず戦う道を選ぶ。あの時も守るために俺は刀を手に取ったんだ。だから謝花さん。俺は君達を斬った事実から目を逸らさないし後悔もしていない」

真っ直ぐ過ぎるくらいの言葉を竈門が紡ぐ。アタシは殺したくて殺していた。コイツは守りたくて殺す道を選んだ。結果は同じでも過程が全く違う。もしもアタシ達両者どちらにも罪があるとしても贖罪者として選ばれるのは──アタシでしょうね。

「……ふぅん、なるほどね。その暑苦しさで凛を落としたってわけ?」
「おとっ……!?」
「あーあ。アンタなんて絶対認めてあげないって思ってたんだけどなぁ」

前世から目を逸らさず逃げずにしっかりと受け止めた竈門炭治郎。前世から逃げることが出来ず償い続ける凛にコイツはあまりにもお似合いで。…というか。凛の前世を知って、自分も前世の記憶があるのにブレないコイツくらいにしか凛は託せないのかもしれないし…

「言っておくけど!凛のこと泣かせたらアンタ、殺すからね!」

ビシッ!と指を差して竈門に釘を刺すと竈門は綺麗な目をまんまるく見開いた後、とても優しい笑みを浮かべた。

「ああ、勿論だ!謝花さんは本当に凛が好きなんだな」

俺も負けないくらい大好きだけどな!と。聞いてもいないのに盛大に惚気てくる竈門に呆れながらも凛の拠り所になってくれる感謝を覚えていた。



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