明日はついに凛さんと約束をした日だ。凛さんと出かけるのは正しくは二回目なのだが、この前のは数に入れるべきかは悩むところで。凛さんは笑顔で「今度こそ万全の状態で向かいますね!」なんて言ってくれたがそれは今夜も彼女が鬼狩りに赴くということを現していた。
怪我をしてほしくない。危ないことをしてほしくない。そんな感情を彼女に抱くことは間違っていることなのだろうか。俺はただ、凛さんに笑っていてほしい。幸せであってほしいと願っている。でも彼女はきっと過去に罪を犯した。それを償うためには危険と隣り合わせの鬼狩りを続けるしかなくて…

「あれぇ、たんじろーくんだ」

もう少しで家に着くというところで名前を呼ばれて落としていた視線を上げるとそこには

「ど、童磨さん」
「やあやあ!君とはよく会うねぇ。凛ちゃんとは上手くやってる?」
「はい!その、たぶん」
「ははっ!それは良かった」

長身の男。俺に贖罪者という存在を漏らした前世で上弦の弍であった童磨さん。いつもにこにこと笑っているがその笑顔は凛さんとはまた違っていて。彼の笑顔は綺麗なんだ。変な意味ではなく、まるで創りもののように完璧で。それが少し寂しそうに見えるのは俺の気のせいかもしれないが。

「で、たんじろー君は凛ちゃんのことどれだけ知ってるのかな?」
「え?」
「だって俺達贖罪者だよ?普通の人間とあんま親密になったらあとが辛いだけだしさぁ。軽蔑するなら早めのほうがいいと思うんだよね」

童磨さんが何を言っているのか分からない。
それにこの匂いは…?

「俺が凛さんのことを軽蔑するなんて絶対にありません!」
「本当に?あの子が参だって知っても同じことが言える?」
「参……?」

俺が本気でよく分からない顔をしていると童磨さんが「あれ、階級のこと聞いてないの?」と驚いた顔をした。階級とはつまり、前世の罪の重さを指すのだと言う。捨から壱に分類され数字が大きいほど罪は軽く、小さいほど罪は重い。前世で上弦の陸だった二人は捌と漆。そして童磨さんは伍の階級だという。そして凛さんは、参……

「ね?俺ですら伍なのに凛ちゃんは参。それがどれほどのものかは前世で俺達の罪を見てきた君なら分かるだろ?」
「……凛さんは、」
「うん?」
「凛さんは前世で何があったんですか?童磨さんは知っているんですか?」

童磨さんはまるで俺のその返答を待っていたかのように嬉しそうに笑う。

「知ってるよ。ぜーんぶ知ってる。そして俺はそれを君に伝えてもいいかなって思ってるんだ」

童磨さんの言葉に心臓がドクンっと跳ねるのが分かる。俺は、俺は怖いんだ。童磨さんがじゃない。凛さんの過去を知ることが──怖い。俺は彼女の罪に向き合えるのだろうか。もしかしたら童磨さんが言ったように凛さんのことを軽蔑してしまうのではないかという不安。……でも、彼女のことを本当に思うのなら。彼女の前世からは絶対に目を逸らせない…!

「…教えてください童磨さん」

俺の言葉に童磨さんは快く頷いて「ちょっと長くなるから移動しよっか」と喫茶店に移動することにした。曰く、童磨さんが案内してくれた喫茶店は彼らはよく使用するらしい。一つ一つの席が離れていて個室のようになっているこの店ではあまり聞かれたくない話がしやすいからとのこと。童磨さんは慣れたように店員に手を挙げて、席へと移動するので俺も童磨さんの後に続く。よいしょ、と。童磨さんが角の席へ腰を下ろしたので俺も向かい合うように腰を下ろすことにした。

少しして定員がコーヒーを二つ持ってくる。俺はコーヒーは特に好きじゃないがここにはお茶をしにきたわけじゃない。童磨さんもそんな俺の様子を見て少しだけ困ったように微笑んだ。

「まあまあそんなに緊張しないでよ」
「…してないです」
「はは、本当に嘘が下手なんだなぁ。大丈夫、なんてことない。君が今から聞くのは遠い昔にあったただの事実だよ」

童磨さんは何の励ましにもならない事実だけ口にして、そしてゆっくりと話し始めた。



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