ずっと繰り返してる


結論から言えば今回のトリガーを使用した件は目を瞑ってもらえることになった。
なんでも私が助けたうちの一人はボーダーにかなり金銭的に援助をしている家の息子さんだったらしく記憶措置をされる前に彼が私をボーダー隊員としてとても評価して庇ってくれたそうだ。良い人だタカシさんとやら…!でももう警戒区域には入らないでほしいな。本当に危険だから。

「ふーん、だからオレよりも帰ってくるのが遅かったんだ」
「いやもう本当に怖かった…幹部の圧こわいよぉ…」
「怖かったのそっち!?」

結局私よりも早く帰宅していた駿の部屋に乗り込むなり私は今日の出来事を駿に報告という形で話すことにした。
目を瞑ってもらえることになったと言ってもしっかりと叱られたわけで。鬼怒田さんや根付さんのように小言を連発されるよりも城戸さんの沈黙からの「今回のみ特例だ」という一言のほうが怖かった。ルールを破った私が完璧に悪いけど本当にもう、あの部屋には行きたくないなぁと思うくらいには怖かったんです…!

「でも助かって良かったよ。いつも言ってるけどリンは後先考えずに無茶しすぎ」
「うっ、でも見て見ぬふりは出来ないでしょ」
「確かにそれも分かるけどさぁ…」

駿が私にこう言うのはいつものことであって、その度に心配をさせてしまって申し訳ないと反省はするのだけど私は目の前で危険に晒されている人を放っておくことが出来ない…というか頭より先に体が動いてしまうタイプなのだ。この性格のせいで昔一度大きな怪我を負って家族にも駿にもかなり心配をかけてしまった。どうしたものかとこれでも悩んではいるのだけど…早く強くなってB級隊員に上がるのが一番の近道なのかな。

「助けてくれたのってA級の人?もしかして迅さん!?」
「えっと、烏丸先輩と…」

──よう、大丈夫か?

あんな大きな近界民をあっという間に倒して気付いた時には私のことを抱き抱えていた遊真先輩。確かに駿から強いとは聞いていたけどその強さは本物で、それで。

「リン?」
「あと、その…ゆ、遊真先輩」
「遊真先輩!?」

その名前に駿は目を輝かせて立ち上がる。それからはいつも通り遊真先輩は本当に強いんだよとか遊真先輩が駆け付けてくれるなんてラッキーだねとか。駿はまるで自分のことのように自慢げに語ってくれた。
この日は駿の遊真先輩は凄い!と言う話とそれでも無茶はしちゃダメ。という話を中心に盛り上がってお開きとなった。今日は色々と疲れたこともあり早めに布団に潜り込むことにした。いつも通りの自分の部屋でいつもと同じように眠りにつこうとする。なのに全然心はいつも通りじゃなくて目を瞑れば今日のことが思い返された。

── なるほどね。うちの隊長と同じタイプだ

遊真先輩は確かにそう言った。うちの隊長…というと三雲先輩のことだろうか。私は三雲先輩のことはよく知らないけれどしっかりしてるように見えるし私のように後先考えず無茶をするような人には見えなかった。いやまあ、よく知らないのだから断言は出来ないけれど。
でもきっと。遊真先輩は三雲先輩を信頼している。駿に対してお仕置きをしたのも駿が三雲先輩を貶めようとしたからだし。だから、あの優しい笑顔は私じゃなくて三雲先輩に向けられたものだったのだろう。たぶん。

── どういたしまして

そう言って私の頭を撫でてくれた遊真先輩。私より背は小さいけれど抱き抱えてくれた腕は逞しく感じたし去っていく背中は大きく感じた。またなって言われた時はまだ行かないでほしいなんて思っ、

「…いやいやいや!なに!?なにこれ…!?」

がばっ、と腹筋をするように布団から飛び起きて頭を抱える。まてまて、なに。確かに、確かに今日の出来事はイレギュラーで忘れられない出来事だったと思う。でもさもっと。例えば近界民怖かったなぁとか幹部の人たち怖かったなぁとか他にも思い出さなければいけないことがあるはずだ。…いやまあ、その二件は思い出すと落ち込みそうだから出来れば思い出したくないけど。

── いいよ別に。おれもリンって呼ぶな

目を瞑れば…いや、目を瞑らなくても気付けば遊真先輩のことばかり思い出してしまう。これはあれだ。駿があまりにも遊真先輩遊真先輩って話したせいだ。そうに違いない。そう自分に言い聞かせて再び布団を頭まで被って目を瞑る。体は疲労しているのに結局この日私はほとんど眠ることが出来なかった。




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