強い幼馴染み

私と緑川駿は幼馴染みである。
家が隣同士で親同士も仲が良くて同い年の私と駿は兄妹同然に育ってきた。親が忙しい私はよく駿の家にお世話になっていて学校から帰れば駿の部屋に遊びに行くのが日課だったり。思春期とかいうやつで周りから揶揄われることもあるけど私と駿はホントにそういうものは一切ない。私は駿のことを弟のように思ってるし駿は私を妹のように扱っている気がする。つまりまあ、ある意味本当の家族の一人みたいなものなのだ。

そんな駿がある日ボーダーに入ると言ってきたのには本当に驚いた。聞いてみれば近界民に襲われたところを助けられてその人のようになりたいと目を輝かせていて。近界民…私はテレビでしか見たことがないけれどあんな化け物みたいなのと戦うなんて正気?ゲームじゃないんだよ現実なんだよ。と詰め寄れば駿もボーダーに関して勉強したらしくトリオン体というものである限りは体に傷を負うことがないとか色々早口で説明してくれた。こうなった駿を止める手立てはない。そして駿も私の反応を確信してこの話をしたんだ。

「リンも一緒に入らない?ボーダー」

そんな面白そうな話をされて乗らないわけがない。私は駿が私にしてくれたように両親を数日に渡って説得して駿と一緒にボーダー隊員を目指すことにした。
結果として。
私も駿もボーダー試験には受かることが出来た。でも駿は対近界民戦闘訓練で4秒で近界民を倒すという信じられない記録を出して私は時間切れというなんともまあ才能ナシ!と言われる結果を叩き出したのだった。

あれから一年と少し。
駿は瞬く間にその実力をボーダー内に知らしめて今ではA級4位の隊に所属している。そして私はいまだにC級である。時間が経てばB級に上がれるというわけでもなくむしろ新しく入ってきた隊員が優秀ならどんどん抜かれていくのが現実だ。
と。ここまでネガティブに聞こえることを並べてみたけれど当の私はこの境遇を悲観してはいない。駿が運動神経が良いことは知っていたし、その駿を真似して最初は攻撃手として切磋琢磨してたのが向いていなかったことに気付いたのも結構最近だったのでこんなものだろう。


「おそーい!駿何やってんの!もう時間かなり過ぎてますけど!?」

今日は一緒に帰ろうと約束していた駿がかなり時間を過ぎても姿を現さない。まあ駿はA級隊員だし時間厳守は無理だよなーと広い心で待つこと30分。いや、せめて連絡くらいして?
メッセージアプリを開いても送ったメッセージに既読すらつかない。なんなんだ全く。駿が音信不通になる前に「ちょっと個人戦してくる。すぐ終わるから待っててー」とメッセージが来ていたのでランク戦室にまだいるかもしれない。…迅さんにでも出くわして盛り上がってるのかなぁ。全く、と少しだけ溜息をついて私は駿を探すためにランク戦室へと向かうことにした。


ランク戦室へ着くといつもよりもかなり多くの隊員が集まっている。そしてモニターには探していた「緑川」という名字と初めて見る名前の「空閑」という文字が映し出されていて

「えっ、駿負けてるじゃん」

最初の2回は駿が勝っているけれどその後は全て駿が負けていた。そして今この瞬間にも駿は「空閑」さんに負け黒星を1つ増やす。

「おーリン」
「リン。ひさしぶりだな」
「よねやん先輩、それに陽太郎くん…と、」
「こいつは今緑川と戦ってる白チビんとこの隊長」
「あ、三雲修です…」
「斎藤リンです…ど、どうも」

お互い名前を名乗って軽く頭を下げた。三雲さんって聞き覚えがある名前だと思ったけど駿が言ってた風間さんと引き分けたって噂の人か。生意気だーとか駿は言ってたけど全然良い人っぽいな…

ざわっとまたしても辺りが騒がしくなる。どうやら「空閑」さんがまた駿に勝ったらしい。駿は強い。幼馴染みの贔屓目とかそういうのをなしにしてもかなり強いと思う。その駿をこんなにもボコボコに出来るなんて「空閑」さんって何者?それにしても、

「あれ。でも駿良い顔してますね」
「白チビが只者じゃないって気付いたんだろ」
「なるほど…」

最終的に駿は2-8で「空閑」さんに負けた。けれどブースから出てきた駿は満足そうな顔をしていてこの場に現れた迅さんに走り寄って楽しそうにしたり、三雲さんに頭を下げたりと忙しなかった。駿の交流を妨げるつもりもないので暫く静観していると迅さんや三雲さん、そして「空閑」さんがその場を後にした頃ようやく私の存在に気付いて

「あっ」

やばっ、忘れてたー!と私の元へ駆け寄って両手を合わしてくるのだった。


「珍しいね、駿がボロ負けなんて」
「遊真先輩は強いよ。正直最初はちっこいから舐めてた。やっちゃったなー」

ボロ負けした割には清々しい駿にこっちまで楽しくなってしまう。駿は強い相手と戦うのが好きみたいだからまた一人その相手が増えたのは良いことだ。

「でもその遊真先輩?ってC級隊員だったよね。なんで駿と戦ってたの?」
「あー…」

どうやら駿は最初は遊真先輩とやらと戦う気はなかった…というか遊真先輩の存在すら知らなかったらしく風間さんと引き分けたと噂されていた三雲先輩をみんなの前でボコボコにしてやろうと趣味の悪いことを考えたらしい。

「それで遊真先輩にお仕置きされたんだ」
「そーいうこと」
「駿が悪いじゃん」
「わかってますー!ちゃんと謝ったし!」

どうやら本気で反省…というかもはや黒歴史になりそうな行いを悔いているようなのでこれ以上責めるのはやめようと話題を逸らせば駿はいつも通りの駿に戻るのだった。

「空閑」遊真先輩。私の中で強い!と位置している駿をあんなにも一方的に負かせるC級隊員。でもブースから出てきて遠巻きに見てる分には嫌な感じはしなかったな。
この時の私はまだ遊真先輩とやらのことがよく分からなくて、駿より強い人としか認識していなかった。





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