分からない。私には炭治郎が何を考えいるのか全く分からない。
「凛!好きだ!」 「……はいはい」 「恋仲になってくれないか?」 「なりません」
信じられる?このやりとりがもう半年も続いてるんだよ。
***
任務を終えていつものように蝶屋敷へ向かう。どうしても考えてしまうのは炭治郎のことだ。 半年前、私は炭治郎に好きだと…まあ多分、告白をされた。すぐにごめんと言ったのだけど次の日から会う度に好きだの恋仲になってくれだの、まるで挨拶代わりのように言ってくる。しかもところ構わず言うものだから周知の事実にもなっていてとても居た堪れない。
「…私がはっきりしないからいけないのかなぁ」
いや待て待て。ごめんって。はっきり言ってませんか私?炭治郎とは恋仲になれないとも、早く諦めてとも。随分はっきりと告げているはずなのにそれに対する返答は「好きになってもらえるよう頑張る」「諦めたくない」だったのだ。 いや炭治郎、私以外の女の子をもっとよく見るべきだよ。特に鬼殺隊士以外の女の子を。炭治郎にはもっとこう、普通で家庭的な─
「凛、おかえり!」
考え事をしながら歩いていたため気付けば蝶屋敷のすぐ側まで来ていたらしく、炭治郎が笑顔で出迎えてくれた。 思わず身構えてしまう。まだ早朝だ。いつものように大声で好きだのなんだの言われたら堪ったもんじゃない。それに私は任務明けで疲れているんだ、寝たい。物凄く早く寝たい。そんな私の意図など全く伝わっていないのか炭治郎はにっこりと優しげな笑顔を浮かべる。
「可愛いなぁ」 「可愛くないです、いいからそういうの…」
今日は褒め殺しをしてくる気か。 私は疲れている。炭治郎に構っている暇はない。少し感じは悪いかもしれないけれど炭治郎の顔を見ずに横を通り抜けると炭治郎は気にも留めていないように優しい声で
「任務お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」
そう言ってくれた。 ぴたりと足が止まる。こんな早朝に出迎えてくれて顔も見ずに中へ入ろうとした私に炭治郎は優しく声をかけてくれる。なのにこのまま無視して去ることはやっぱり出来ない。そう思い振り返ると炭治郎は愛おしげな眼差しで私を見ている。だからそれはやめろと…
「……ただいま、ありがとう」
たったそれだけの言葉なのに、炭治郎があまりにも嬉しそうにするから恥ずかしくて堪らない。なんなんだ、もう。今度こそ中へ入ろうと戸に手をかけると後ろから「凛」と名前を呼ばれた。
「……何?」 「好きだよ」 「聞かなきゃ良かった……」
今日も今日とて、炭治郎は私に想いを告げてくるのだ。
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