単独任務を終えた私はそのままお世話になっている蝶屋敷へと足を運んだ。 一度お世話になってからというもの「いつでも来て大丈夫ですよ」と笑顔で受け入れてくれた蟲柱様のご厚意に素直に甘えさせてもらっている。私以外にもそういった縁がある人達がいるのだが。
「あ!凛、おかえり!」
最近その中の一人に妙に懐かれた気がするのは気のせいかな?
「お疲れ様。どこか怪我はしてないか?」 「うん」 「そうか、良かった!そういえば、アオイさんが一人一つ饅頭を食べてもいいって言ってたぞ。あと善逸が─」 「ま、待って炭治郎」
ん?と優しげな顔で私の顔を覗き込む男は竈門炭治郎。同期でありなにかと縁のある友人で、鬼にされた妹を人間に戻すために鬼殺隊に入隊したらしい。その話を聞いた時は妹さんだけでも無事で良かった、と心から思った。私は家族全員を亡くしてしまったから残った妹さんを大切にしている炭治郎には好印象を持っている。 そんな炭治郎が無茶をするようになり私に説教…というか忠告をされたのが一月ほど前だろうか。あれから炭治郎は怪我が減り無茶することが減ったようなので安心していた。のだが。
「汚れが気持ち悪いから、先に湯浴みしてくるよ」 「ああ!なら湯の用意をしてくるな!」 「え、ちょ─」
私の静止も聞かずに炭治郎は笑顔で走っていってしまう。元々人との距離が近いとは思っていたが、勘違いでなければあの一件から異様にその。懐かれた…?気がする。 私を見つければさっきのように笑顔で走ってきて本当に嬉しそうな顔をする。そして私が口を挟む間もなく楽しそうに話すのだ。
「…まあ、別にいいか」
炭治郎のことは嫌いではない。むしろ好印象を持っているのだから嫌だということはないし気にすることはないだろう。 そう思って私が湯浴みを向かおうとすると戻ってきた炭治郎が「用意出来たぞ!」なんて嬉しそうに言うものだからついつられて笑ってしまった。
***
最近凛を見かけると嬉しくて仕方ないし、会えない日は残念でしょうがない。 昨日は任務から帰ってきた凛が「湯浴みをしたい」と言ったので湯の準備をして伝えると凛は嬉しそうに笑ってくれた。それだけのことなのになんだか泣きたくなるくらい嬉しかったんだ。俺は一体どうしてしまったのだろう…。
「いや、炭治郎それってさ…」 「ん?」
善逸に相談に乗ってもらうため甘味を奢ることになり甘味処で団子を食べながらそう伝えるとなんだか呆れたような顔…そして匂いを善逸がさせる。 一体なんだというのだ。誰に相談したらいいかわからず、きっと善逸なら真面目に聞いてくれるだろう。善逸はいい奴だからな。と思って話したというのに。
「あー…炭治郎、好きな子とか今までいなかったの?」 「? 善逸や伊之助のことは勿論好きだぞ!」 「ありがとね!?俺も好きだよ!?でもそうじゃなくて!女の子だよ、女の子!」 「女の子…?」
ぱっと思いつくのは禰豆子の姿。禰豆子のことは勿論大好きだ。
「カナヲちゃんのことは?」 「好きだぞ?」 「アオイちゃんは?」 「? 好きだぞ」 「ふーん、じゃあ凛は?」 「勿論、すっ……」
好きだぞ、と言おうとして言葉に詰まる。凛のことが好き。…好き?俺は確かに凛のことが好きだ。だけど何か違う。カナヲとアオイさんのことを尋ねられた時とは全く違うのだ。 思い浮かぶのは真剣に俺を諭してくれた凛、嬉しそうに笑う凛。気付けばいつも凛を探している自分がいる。
「あ、れ…?」
意識をしだすと途端に顔が熱くなるのが分かる。いてもたってもいられず片手で顔を覆うとうひひ、と楽しそうな善逸の声が聞こえてきた。
「やっと自覚した?遅かったね」 「え、遅かった?」 「無意識だったかもしれないけど、端から見ると結構筒抜けだったぞ」 「そ、そうだったのか…!」
そうか、これが。これが誰かに恋をするということなのか。自覚してしまうと今までの自分の行動も理解が出来る。凛を探し、会えない日は寂しく会えた日は心の底から嬉しい。 …なんてことだ。思い返せば噂に聞く恋煩いそのものじゃないか…!
「善逸」 「ん?」 「俺、凛が好きだ」
そう言うと善逸は「知ってたよ」と少し意地悪そうに笑った。 俺は凛が好きだ。一秒でも早く凛に会いたい。 自覚してしまったらもう止まれないのだと再認識した。
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