「善逸、最近なんだか逞しくなったな」
「そーお?まあ、頑張ってますからね」
「俺に秘密で隠れて特訓でもしてんのか!?」
「隠れてなんかしてはないけど…強くなりたいんだよね、俺」

最近善逸は変わった。とは言っても今までみたいに俺達と一緒に鍛錬もするし、性格が変わったわけではない。だけど、まず鍛錬を渋ることがなくなった。それどころか夜も自主的に鍛錬に励む姿を見ることも増えた。
もう一つは任務を言い渡されても嫌がったり叫ぶことがなくなった。善逸は初めて会った時から強い匂いをさせていたが、どこか自分に自信がなく実力と行動が伴わないこともあったが今の善逸は誰がどう見ても頼もしい鬼殺隊士である。

「善逸は元々強かったけど、本当に頼もしくなったぞ」
「へへ、ありがとね。炭治郎」

さてと。と善逸は腰を上げて伸びをして、いつもさせる匂いをさせた。

「んじゃあ俺、凛のとこに行ってくるわ」

善逸は多分、凛さんのために強くなりたいと心を決めたのだろう。本人から直接聞いたことはなかったけど、凛さんのところへ行く。と言う時、善逸はどこか嬉しそうな匂いをさせているから。

「ああ、気をつけてな」
「帰ってきたらまた俺と稽古しろよ!」

俺達二人に笑顔を向けて善逸がこの場を後にする。善逸は元々俺達より一つ歳上だったけど、最近はそれ以上に大人びて見える。…なんというか、男の顔をしているというか…

「あいつ」
「ん?」
「凛って奴と番なのか?」
「え!?いや、それは…いや、どうなんだろう…?」

伊之助の疑問に俺は答えられなかった。
凛さんの名前を口にする時、善逸はいつも決まって嬉しそうで、そして寂しそうな匂いをさせるようになっていたから、俺は何も聞けずにいた。

(善逸が話してくれる時がきたら…)

どんな話でもなんでも聞こうと思う。
俺達はさ、兄弟みたいなものだからさ。だから善逸。お前が選んだ道なら俺達はどんな道でも応援するからな。


***


いつも通りつまらない日々を生きている私に最近少しだけ変化が起きた。いや、私にと言うよりは彼にと言ったほうが正解なのだけど。

「斎藤、今夜空いてるよな?」

いつも通り私を見つけるとこの男は私の体を要求してくる。こいつの頭にはそれしかないのか、と呆れはするものの断って面倒事になるのも以前のように手酷くされるのもごめんだ。明日は朝から任務のために移動をしなければならないから本当は嫌だけど、さっさと満足させてさっさと終われば十分寝れるだろう。私がそう口を開きかけた瞬間、私の目の前にはいつもの金色が広がった。

「駄目です〜凛は俺と先約があるんで諦めてください〜」
「はぁ!?おい我妻、そろそろ俺にも斎藤を貸せよな!最近お前が使いすぎじゃねーか?」
「駄目なもんは駄目ですよ。凛のことはもう諦めてください〜」

そう言うと男はチッと舌打ちをして私達の前から姿を消した。
あの日、善逸に過去を話してからもう半年が過ぎようとしていた。こんな私のことを嫌になっただろうな。もう私とはご飯も食べてくれないかもしれない。そんなことを考えていたのは全くの杞憂で、善逸はあの日以降も私のところへ訪れて一緒にご飯を食べたり、甘味を食べたり、それこそお出かけをした時のように散歩に誘ってくれることも増えた。

そして今のようにあの男に迫られるところを目撃すると必ずそれを阻止してくれる。流石に毎回運良く駆けつけてくれるわけにはいかないけど、善逸が駆け付けてくれた時は必ずあの男は引き下がってくれた。善逸はこの若さで丙の階級であり、柱に最も近い数人にも入っている。それに加え最近の善逸の活躍ぶりも凄まじいものらしく彼にわざわざ喧嘩を売るような隊士はいなかった。

「凛、明日任務なんでしょ?」
「え、なんで知ってるの?」
「あいつに迫られた時、困った音させてたから。駄目でしょ、任務の前はしっかり休まなきゃ」

今日も一緒の部屋で寝ようよ〜と善逸は優しい笑顔を浮かべて誘ってくる。善逸は私を見つけると今日も蝶屋敷においで。といつも誘ってくるのだ。現時点で善逸が拠点としているのは蝶屋敷らしく、私を見かけてはこのように誘ってくるのだ。断る理由はないけど…

「いいのかな。何回もお邪魔しちゃって」
「うっ、ずっとお世話になってる俺からするとなんとも…!」
「あはは、確かに」
「あーあ。俺も柱になったらちゃんと屋敷を貰おうっと。そんで」

善逸が私の目をまっすぐ見て、その目を優しく細める。

「ちゃんと俺のお屋敷に招待するからね?」

その申し出に、私はどうしていいか分からなかった。
善逸は優しい。本当に、優しんだ。だけど今まで私のことを助けてくれた人も、優しくしてくれた人も、それこそ同じ部屋で眠った人も皆私のことを襲ってきた。ああ、これが目的だったんだなって諦めると楽だったのに善逸は私を全く求めなかった。それが、私は怖い。

どうして見返りを求めないんだろう。善逸は何を思って私に優しくしてるんだろう。今まで無償で優しくされたことなんてなかったからこそ、善逸が何を考えてるのか私には分からなかった。


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