鬼殺隊は鬼に恨みを持っている人が多く集まっているけど、私からすれば鬼も人も変わらなかった。だって、私の両親を殺したのは人間だったし、その後私のことを餌として扱ったのは人と鬼、両方だったのだから。
人間は男や価値のない女を殺し、それを鬼に献上する。鬼はそんな人間と組んで攫ってきた女を餌として男達を招き寄せ、女を陵辱した男を食べる。食べられた男達の金品は人間の懐に入るためお互い良い思いしかしないというわけだ。攫われ餌と扱われる私達を除いては。

初めて男に抱かれた時はそれが何を意味するのか全く分からなかった。それこそ、初潮すらまだだったのだから。痛くて怖くて。やめてと泣き叫べば男はもっと興奮して痛くした。くる日もくる日も知らない男に陵辱され、沢山のことを強要された。上手くできないと頬を張られたり、それこそ痛くされるから必死で色んなことを覚えた。だって、上手く出来ないでずっと泣いていた他の子達はすぐに殺されてしまったから。

そんな地獄のような日々は突然終わりを迎えた。あまりにも被害数が多かったため足がつき、鬼殺隊が男と鬼の根倉に駆け付けてくれたのだ。
だけどまあ、絶望したよね。鬼のことは斬ってくれたけど人間のことは斬れないんだって。「人は俺達の領分じゃない」と苦虫を潰したように役人に人間を任せていたけど、私は全員殺して欲しかったんだ。


***


「だから私は鬼殺隊になったの。だって、鬼殺隊になれば少なくとも鬼を殺しても咎められないでしょ?誰かを助けたいとか、そういう立派な考えは私にはない。ただ、八つ当たりがしたかっただけ」

凛の地獄のような過去に俺は何も言えずにいた。両親を殺されただけでも想像を絶する苦しみを味わったというのに、凛はその後も多くの男に陵辱され、傷付き、そしてそんな酷い境遇を諦めることでしか自分の心を守れなかったんだ…
凛は俺の顔を見てふっ、と軽く笑った。

「善逸、初めて会った時に言ったよね。怖くないの?って」
「え?…うん」
「本当に怖くなかったの。だって私はいつも死にたいと思ってるから。生き残る度にああ、また死ねなかったなって思うだけ。だから怖いことなんて何もないの」

凛からはいつも、どこか諦めたような…それこそ他人事のような興味のなさそうな音が鳴っていた。その理由がやっと分かった。凛はもう、この世に希望を持っていない。希望を持たなければ傷付くことがないと、彼女の過去がそう確信をさせてしまったんだ。それは、とても悲しい生き方で…

「善逸といる時だけは、少しだけ自分が人間に戻ったような気がして楽しかった」
「え…?」
「笑って泣いて怒って。そんなものとっくの昔に捨てちゃったんだけど、善逸を見てると懐かしくさえ感じた」

捨てた?それは捨てていいものではないだろう。
だけど、凛は捨てるしかなかった。そうすることでしか、自分の心を守れなかったから。だけど守ったはずの心は捨ててしまったそれを取り戻すことが出来ていないんだ。

「凛。捨てちゃったなら、俺と取り戻そうよ」
「え?」
「今はもう、怖いものは何もないよ。それに、凛が怖いと思うものは俺が全部斬るからさ。だから、凛…」

手を差し出すと凛は少しだけ驚いた顔をして、すぐに俺の嫌いな笑顔を作って俺から数歩下がって距離を取ってしまう。どうして、と一歩踏み出すと凛は目を伏せて静かに首を横に振った。

「善逸みたいな綺麗な人が私に捕まっちゃ駄目。善逸まで汚れちゃう」
「凛、凛は汚れてなんか…!」
「汚れてるよ。体も心も全部。私はね善逸、この世で一番私が嫌いなの」

さようなら、楽しかったよ。と凛は全てを諦めたような笑顔を向けた後、俺に背を向けて一度も振り返らずにこの場を後にした。

俺は、一生に一人でいいから誰かを守り抜いて幸せにするささやかな未来を夢見ていた。俺にはいつか可愛くて優しくて、そんな運命の人が現れるんだって信じてた。
凛はそんな夢すら見れないというのか。そんなの、寂しすぎるじゃないか…



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