あーあ。気分は最悪だよ。
あの隊士は一度ほとんど無理矢理私を抱いてから味を占めたのか事あるごとに体を貸せと言ってくる。私はあの行為が嫌いだ。虫唾が走る。無理矢理引き出される快感も、腰が痛くなるような遠慮のない抽挿も、荒い息遣いも全部嫌い。
だけど無視をすれば男という生き物は力で捩じ伏せていつもよりも乱暴に扱うのだから諦めた方が早かった。
こんなのはただの性欲処理だ。男が満足すれば終わり。私はそれが終わるまでひたすら快感や気持ち悪さに耐えて目を瞑るだけ。それだけだと言うのに。
「凛は、あの人のことが好きなの…?」
「え?全然。むしろ嫌い」
「だったら!…だったら、あんなことをしちゃ駄目だ…!」
善逸が泣き出しそうな顔で私に迫る。なんで善逸がそんな顔をするんだろう?あ、もしかして。
「善逸もしたいの?」
「は!?」
「別にいいよ?」
今更、相手に善逸が増えたところでそう変わりはない。さっきまで私を抱いていた男よりは善逸に対してのほうが情があるし、別にどうってことない。衣服に手をかけて脱ごうとすると善逸が私の元へと素早く駆けつけて私の手を掴んで止める。
「? ああ、私上手だから心配しないでいいよ」
「じょ、上手とかそういうのは俺は、分からないけど…」
あ。善逸、童貞なんだ。ふーん。
「初めてが私みたいなお汚れだと嫌?」
「そんなことない!だけど…っ、こういうことは、好きな相手とするもんだって…」
善逸の言葉に少しだけ目を見開いた後、ははっと乾いた笑いが漏れた。初めて会った時から思ってたけど善逸はとても綺麗で、人間らしくて。私がどれだけ汚いか問答無用で突き付けてくる。
それでも善逸といるのは楽しくて楽だった。だって、私が捨ててしまったものを善逸は全部持っていたから。
「したくないなら別に良いけど。私もそっちの方が助かるし」
「凛…凛は、好きでもない相手とあんなことをして、嫌じゃないの…?」
「嫌だよ?」
「じゃあ、どうして…!」
どうして?それこそどうして分からないのか。
「私がやめてって言っても誰もやめてくれなかったよ」
やめて、怖い、痛い。
どれだけ泣き叫んでも、静止を頼み込んでもやめてくれた人なんていなかった。むしろ私が泣けば泣くほど喜び、痛くする人ばかり。
あの行為に好きとか嫌いとか、そういったものは何もない。痛いか痛くないか。早いか長いか。それだけ。
「じゃ、もう夜も遅いし部屋に戻ろっか」
寝る前に少し体を拭きたいな。お風呂…は流石にこんな時間じゃ借りれなさそうだし。
「…凛、明日の午後、時間をもらってもいい?」
「? 何、したいの?」
「違う、違うよ!凛、そういうのはなしにして、俺と出かけよう!」
善逸はやっぱり少し泣き出しそうな顔をしてそう言うから、私はいいよとすぐに返事を返した。
別に、なんでも頷くよ。だって抗うのは無駄なことだから。
[ 5/14 ]← →
◆