日が登ってからはあの信じられないような体の熱さも消えてやっと平常心に戻れた。…殆ど高熱に浮かされていたような状態が逆に良かってのかもしれない。俺は、凛に伝えたかったことをそのまま、何も飾らず伝えることが出来た。
そして初めて見た凛の「本当の顔と涙」そして「音」に感動すら覚えたのだ。
それは良かったのだけど…

「痛だだだだ!?」
「ああ、ほら…思い切り斬るから」

思考が停止そうなほどの昂りを逃すために自分の腕を傷付けたまでは良かったのだが、正気に戻ると物凄く痛い。いや、まあこの痛みのおかげで凛に襲い掛からずに済んだのだから良しとしよう。…痛いけどね!

「……善逸」
「ん、なぁに?」
「善逸はその、…本当に私のこと、好きなの?」

え。何その可愛すぎる表情。
それに今までは何を言われても興味のないような音を鳴らしていた凛から、聴いてるこっちまでドキドキするような音が聴こえてくる。
落ち着け善逸。凛の心が開きかかってる今、ちゃんとした答えを返さなきゃ駄目だぞ…!

「大好き」

あ、駄目だ。本音が普通に出た。
俺の言葉に凛の顔が真っ赤に染まって、俺から顔を逸らしてしまう。こ、これは…

「ねぇ、凛」
「な、なに…?」
「手、繋いでいい?」
「手…?」

うん、手。と怪我をしていない方の手を差し出すと凛は少しだけ悩んだ後その手を握ってくれた。俺が握り返すようにぎゅっ、と手を握ると凛は俺の耳じゃなくても分かるほど鼓動を速めて緊張しているのが伝わってくる。

それで分かってしまった。
凛は確かに男性経験は豊富なのかもしれない。だけど、心はまだ捨て去ってしまった少女の時のままなんだ。だったら俺はやっと成長を始めたその心を大切に育ててあげたい。…いや正直言うとね!?滅茶苦茶可愛くて、その!俺も男なので!今すぐにでも色々したいんですけどね!?だけど、ちゃんと凛の心が追いついたら。その時にいっぱい愛してあげたいって思うんだ。

「凛」

凛が上目遣いで俺のことを見てくる。綺麗な音だ。

「大好きだよ」

凛の心に、ちゃんと届くように。俺は何回でも愛の言葉を凛に伝えよう。


***


「凛、好きな人でも出来たの?」

アオイの何気ない一言に一緒に畳んでいた洗濯物をぐしゃ、と丸めてしまう。な、ななな、何を。そう声に出せないほどの衝撃に、とりあえずアオイの顔を見るとやっぱり!とアオイは嬉しそうに声を上げた。

「最近の凛、凄く楽しそうだもん!…前はいつもどこかつまらなさそうにしてて…心配してたのよ」

私の知らないところで、善逸もアオイも私のことを気にかけてくれてたんだ…。前ならそれすらどうでも良かった。どうせ私は消費されてそのうち死んでいくのだから気にしなくていいのにと。自暴自棄になっていたのが今になって恥ずかしい。

「…心配してくれて、ありがとう…」
「ううん!そんなことより!相手はやっぱり善逸さん?」
「え、え!?なんで…!?」
「え、なんでって…」

それから私は信じられないことをアオイに言われた。逢引きの時はまだ意識してない感じだったけれど、この頃の私はどこからどう見ても善逸のことを好きだという表情をしていると。私ですらこの感情に名前を付けれないのに、アオイは当然のように私が善逸のことを好きだと確信していた。

「凛は、善逸さんが好きじゃないの?」
「…誰かを好きになったことがなくて、よく分からないの」

善逸といるのは楽しい。優しく微笑みかけられると嬉しいし、心拍数が上がる気さえする。だけどそれは善逸が好きだから?それとも善逸が私を好きだと言ってくれたから?こんな感情を抱く日が来るなんて全く思っていなかったから本当に分からない。

「…実はね凛」

アオイが真剣な顔で私の目を真っ直ぐと見つめる。

「私も善逸さんのこと好きなの」
「え!?」

アオイの信じられない言葉に思考が停止する。え、まさか。アオイが?た、確かに私みたいな女よりアオイのほうが善逸を幸せに出来るかもしれない。だったら、私は……

『俺が凛のことを誰よりも好きになるから』

思い出したのは、あの日の善逸の言葉。

『だから、俺のことを好きになってほしい』


「だ…」
「ん?」
「駄目…!善逸は、だ…駄目…!」

私はアオイのことが大好きだ。それこそ、女友達の中では一番大好きなのがアオイだ。善逸の幸せを願うなら、アオイのような良い子に善逸を任せたほうがいいのは分かりきっている。
だけど、でも…!

「ほら!やっぱり善逸さんのことを好きなのよ!」
「へ…?」

アオイが満面の笑みで私に微笑んでくれる。
あれ、え?

「アオイも善逸のこと好きなんじゃないの…?」
「え?ああ好きよ。人として」

……。だ、騙された!いや、別に嘘はつかれてないけど、でも、その…狡くないか…!?

「今の凛、本当に可愛かった。善逸さんに嫉妬しちゃうくらい。凛、自信を持って。凛は善逸さんのことがちゃんと好きよ」

アオイの優しい言葉に「好き」と言う言葉が自分の中に入ってくる。そうか、これが、好きって気持ちなんだ。私には一生縁のないものだと思っていた。誰かを恨むことはあっても、好きになることなんてないんだって。諦めていた。

「ちゃんと、好き…」

口に出してみると恥ずかしくて、顔を手で覆うとアオイはやっぱり楽しそうに私を鼓舞してくれるのだった。


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