年の瀬になりつい先日まではクリスマスムードだった世の中はお正月ムードに雰囲気を変えている。いつものように土曜日には凛が足を運んでパンを食べてくれるので寒くなってきたしとホットココアを淹れるととても喜んでくれた。

「わー!嬉しい、ありがとう!」

可愛いなぁと。歳上である凛にそんな感情を抱いてしまう。歳上と言ってもたった三歳差だ。俺の母さんと父さんも三つ以上離れているしそこまで気にすることはないだろう。現に凛と俺は年齢差など関係なく友人関係を築いているし、普通よりも仲良しだと思っている。…身長はまだ、凛の方が大きいけど。

「あ」
「ん?」
「そういえば、竈門ベーカリーってお正月は休みなの?」
「うん。三ヶ日は休みを─」

そう言いかけてハッとし、カレンダーに目を向ける。来週の土曜日は一月三日で竈門ベーカリーは翌日の日曜日から再開されることになっている。
つまり、凛とは丸々二週間会えないということだ。

「そっかぁ。じゃあ来週はパン食べに来れないね」

そういえば習字教室も休みだったなぁ。と凛が言う。俺は、俺は凛のようにすぐに切り替えれない。だって、出会ってから毎週土曜には会えていたのに会えないなんて寂しくないのか?俺は寂しい。…だけどそれは俺の我儘だと気付く。俺は店で待っているだけだけど、凛はわざわざ電車に乗ってここまで来てくれているのだ。習字のついでなのかもしれないけれど、だけどここに寄ってパンを買って、と手間をかけさせている。これ以上我儘は言いたくないし、我慢の出来ない奴だと思われたくない。
…そういえば俺、凛のこと何も知らないな。三つ先の駅から来てくれて、俺より歳上で。それくらいしか知らない。なんだかそれが凄く嫌で寂しく感じる。

「炭治郎?どしたの」
「え?」
「なんか難しい顔してるよ」

不思議そうな顔で凛が俺の顔を覗き込んでくる。知らないなら、知ればいい。勇気を振り絞って凛の手を掴んで俺は口を開いた。

「凛!住所を教えてくれないか?」


***


住所を教えてくれと手を握られ、そういえば私は炭治郎の家の住所も電話番号も知っている…というより竈門ベーカリーを調べれば分かるけれど炭治郎はそうもいかないもんなと気付いた。世も年の瀬だし、年賀状でも書いてくれるのだろうか。

「うん、いいよ」
「本当か!?」
「本当だよ、書くものなんかある?」

待っててくれ!と炭治郎は嬉しそうに走っていく。本当に可愛いなぁ。こんな弟がいたら毎日滅茶苦茶可愛がるのにと思わずにはいられない。
炭治郎は私と話す時いつも楽しそうに笑ってくれるし一生懸命パンを作る姿は素直に尊敬している。歳下の男の子と今まで仲良くなったことはなかったけれど炭治郎は長男で家の手伝いもしているからか、全然歳下という感じはなく同年代の友達と変わらず仲良くなれた。
だけど背は私よりも小さいし、年齢も歳下なのは変わらないのでこういう風に喜ばれると可愛いし甘やかしたくなってしまう。毎週土曜日を楽しみにして欠かさず竈門ベーカリーに通うほどには私は炭治郎が気に入っているのだ。

「はい、書いたよ!」
「ありがとう!…凛はここに住んでいるんだな」
「ふふ、そうだよ」

目をキラキラとさせて住所を書いた紙を嬉しそうに眺める炭治郎はまるで欲しかったものを手に入れた子供のように可愛らしい。クリスマスにプレゼントしたキッチンミトンも「一生大切に使う」と大袈裟なほど喜んでくれたし本当にプレゼントのし甲斐のある子だなぁと微笑ましくなる。

「手紙書くからな!」
「え、手紙?」
「だ、駄目だろうか…?」

しゅん、と少し落ち込んだ風に上目遣いで聞いてくる炭治郎。…それは反則じゃないだろうか。そんな顔をされて駄目と言うやつがいたら連れてきなさい。お姉さんが引っ叩いてやるから。

「駄目じゃないよ!年賀状のために聞かれたと思ってたから驚いただけ」
「年賀状も書くからな!」
「? うん、もう何でも受け取るよ!」

そう言うと炭治郎はやっぱり嬉しそうに笑ってくれた。


数日後、炭治郎から約束通り送られて来た手紙は彼らしく真っ直ぐで年齢の割に少し堅かったりする内容が書かれていて思わず頬が緩む。
手紙なんて今時古風だなぁと思ったがこれはこれで悪くない…というよりもかなり嬉しい。
私はすぐに文房具屋へと向かいちょっとだけ可愛らしい便箋を買って、これを貰った炭治郎がどんな顔をするのか想像してスキップしながら家に帰るのだった。



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