「じゃあ、飲み物を持ってくるからちょっと待っててくれ」
「うん、分かった」

今日は竈門ベーカリーは休業日で、家では炭治郎が一人で留守番を任されているらしい。最近では一人暮らしを始めた私の家に来ることが多かったので、たまには遊びに来ないか?と誘われ二つ返事で遊びに行くことを決めた。
部屋には相変わらず「かまどベーカリー」と私が小学生の頃に書いた文字が飾られており、何度言っても外してくれない。一番最初の宝物なんだ、なんて愛おしげな笑顔で言われてしまえば嬉しくないはずがなかった。

「うーん」

ぼふっ、と炭治郎のベッドに顔を埋める。炭治郎の匂い、好きだな。今となっては何もかも好きだけど、炭治郎の匂いはとても落ち着く。
ふと。私はあることを思い出した。

『彼氏のベッドの下からエロ本が出てきてさぁ。SMだよ!?びっくりしたわー』

そんな話を大学の友達が確かにしていた。…炭治郎って、エロ本とか読むのかな?気になったらもう、止まれない。私はすぐにベッドの下を覗き込んだ。
まって。ある。何かが、ある!
まるでお宝を見つけたような高揚感に胸を高鳴らせながらそれに手を伸ばすと、

「……た、炭治郎も、こういうの、読むんだ…」

それは、グラビア…よりももう少し過激な所謂「そういう本」だった。
いや、別に炭治郎とはそういうこともしてるし、健全な男の子なのは分かってるけど。勝手ながら炭治郎がこういうのを読むなんて思ってもなかったので少し驚いている。

意を決してページを捲るとお姉さん系が殆どで後は巨乳…ふむふむなるほど。炭治郎はこういうのが好きなのか。
お姉さんは、ギリ。ギリいけるよ歳上だから。…巨乳は無理だ。人並みに胸はある。だが、世の巨乳好きが満足するような胸じゃない。

「う、うわあぁあ!?何見てるんだ凛!」

集中していたため炭治郎が戻ってきたことに気付かず炭治郎の叫びに「わぁ!」と驚くと、炭治郎は私の手から本を奪って顔を真っ赤にさせた。

「そ、その…炭治郎どんな人が好きなのかなーって…あ!お姉さん系は!いけるよ!」
「な、何言って…!こ、この本は!もう、捨てるから!」

炭治郎は私から奪った本をゴミ箱に入れてしまう。ああ、炭治郎の好みが参考になったのに。
ちらり、と炭治郎を見ると炭治郎は顔を真っ赤にさせて口に手を当てている。いや、可愛いなぁ?そんな炭治郎を見ていると悪戯心に火がついてしまった。…からかってみようかな。

「竈門君?」
「え!?」

突然の苗字呼びに、精一杯胸を押し付けるように炭治郎の腕にぎゅうっと抱きついて下から炭治郎を見上げると炭治郎の目が私に釘付けになる。そう、炭治郎は私に下から見上げられるのが好きなのだ。

「お姉さんがえっちなこと、してあげよっか?」

真っ直ぐに目を見て言うと炭治郎の大きな目が溢れそうなくらい見開かれる。頬も真っ赤だし、汗もかいちゃって。本当にこういうの好きなのかな。だけどあんまりからかいすぎても良くないからごめんごめん、と腕を離して両手を上げた。

「あはは、ちょっとからかいすぎたかな。炭治郎こういうのす──」

きなの?と聞く前に炭治郎に腕を思い切り引っ張られてキスをされる。

「ん!?」

最初から舌を差し込み私の口内で暴れさせる。これは、いつものようなキスではなくて抱かれる時にされる深いやつだ…!

「ん、んんぅ……ふっ、ぁ」

キスをしながら炭治郎は私の首をいやらしい手つきで触ってくる。ぞくぞくとした感覚が背中に走り生理的な涙が目尻に浮かぶ。炭治郎は口を離すと私のことを抱き上げてそのままベッドに押し倒す形で一緒に倒れ込んだ。

「た、たんじろ。するの…?」

まだ今日、家に来たばかりなんですけど。
はぁはぁと、乱れた息を整えようとしていると炭治郎がにっこりと笑顔を作る。

「えっちなこと、してくれるんだろ?おねーさん」

ごりっ、と硬くなったモノが当てられる。
あ、これは。私やらかしましたね?


***


「でも炭治郎、こういう子が好みだったの?」
「あ!ゴミ箱から拾ってきたな…!」

散々抱かれて少し落ち着いた後、持ってきた飲み物だけでは足りず炭治郎が新しい飲み物を取りに行っている間に私はゴミ箱から例の本を拾ってページを開いていた。
お姉さん系も私には無理で、されるがままに炭治郎に気持ちよくされて、挙げ句の果てには「おねだり、上手に出来たな?」と私の方が炭治郎に翻弄されてしまっている。もしかして私は炭治郎の好みとはかけ離れているのではないのだろうか…!?

「だって気にな…あれ、付箋?」

最初からページを捲ることに必死だった私はこの時初めてこの本に付箋が貼ってあることに気付いた。え、お気に入りのページ?
見ないという選択肢などなく、私は付箋のついているページを捲ると、

「え」
「あ!凛…!それは…!」

そこに挟まっていたのは、私の写真だ。そんな卑猥な写真でもなく、ただ笑っている写真。これは…?

「…炭治郎、もしかして」
「…………」

炭治郎が顔を真っ赤にさせて私と目線を合わせてくれない。挟まれていた私の写真。そしてそのページの女優さんの写真。これは、もしかして…

「私が巨乳になるよう、願掛けしてたの…?」
「違うだろ!」

炭治郎が呆れたようにはぁーと溜息をついてがりがりと頭をかく。この時炭治郎の頭には「あいつ超鈍感だから」と玄弥に言われた言葉が響いていたがそんなこと私が分かるはずもなく。

「………そのページの子が一番、凛に似てたから」
「……え」
「も、もう勘弁してくれ。ほら、本も返すんだ」

顔を真っ赤にさせたまま炭治郎が言う。…さっきまでこの本よりも凄いことをしてたというのに…そんなところも大好きで後ろから抱き付くと炭治郎は振り返ってまたしても私をベッドに沈み込めるのだった。



凛は全く理解していなかった。その女優に凛を重ねて炭治郎がお世話になっていることに。

「…玄弥、俺…頑張るな…」

親指を立てた玄弥が見えた気がした。



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