あれからほどなくして私と炭治郎はめでたく恋人同士となった。というものの、炭治郎は私に想いを伝えてからブレーキが壊れてしまったのか好きだ、愛している。可愛い、帰したくない。と抱きついてくるし、頬やおでこや手の甲にキスをしてくるしで私が炭治郎以外のことを考えられなくなるまでに時間はそうかからなかった。
だけど、水曜日は勉強の日なのです。
「た、炭治郎!くっついてないでこの課題を…!」
「凛、良い匂いがする…」
「か、嗅ぐな!」
後ろからがっちりと抱きついて全く離す気配がない。こんな風に時間を無駄にしていいわけがないのに、それを許しているのは私と付き合い始めてから炭治郎の成績が著しく上がったからだ。
どうしてかと聞くと水曜のこの時間を私と過ごしたいから猛勉強したらしい。その結果、勉強会とは名ばかりで毎週水曜日はこのように炭治郎とその…イチャイチャと恋人としての時間を楽しむようになったのだ。
「凛」
優しく名前を呼ばれ反応すれば炭治郎の口が私の口を塞ぐ。最初は触れるだけだけど、どんどん深くなっていくキスが気持ちよくて炭治郎の首に手を回すと、炭治郎も私を抱きしめてくる。
「ふっ……」
最初炭治郎に出会った時はまさかこんな関係になるなんて思ってもいなかった。パンは美味しくて、可愛い炭治郎。よく懐いてくれて弟が出来たみたいで嬉しかった。早く土曜日が来ないかなって毎週毎週楽しみにしてて…
「ふふっ」
楽しげに微笑むと、炭治郎は口を離してそんな私を愛おしげに見つめる。
「どうしたんだ?」
「私も、もしかしたら炭治郎のことずっと好きだったのかな」
「え?」
「毎週土曜日が来るのが楽しみで、炭治郎に会えることが嬉しくてしょうがなかったから」
先に気付いたのは炭治郎だったけど、私だって炭治郎のことを好きじゃなければこんなに長く通うこともなかっただろう。
あの日、たまたま見つけた竈門ベーカリー。そして炭治郎がたまたまパンを落としかけて、それをたまたまキャッチした私。
全ての偶然が重なって今日という日に繋がっていたのだから不思議で、…この奇跡に感謝しかない。
「俺も、毎週土曜日が来ることが楽しみで仕方がなかった。凛に会えると思うと寝付けなかったくらいだからな」
「大袈裟!」
「本当だ!それこそ凛が玄弥と一緒に来た時は嫉妬でおかしくなりそうだったんだからな…!」
「え!そうだったの…?」
笑いながらそんな思い出話を紡いでいく。
毎週土曜日、私はここに通っていた。
それが毎週ニ日、三日と増えていき…時が経つにつれて時間が許す限り私達は一緒に過ごすようになっていった。
「凛」
土曜日になると、私はいつもその店を訪れる。
「愛してる」
大好きな人が、笑顔で待っていてくれるから。
終
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