高校三年になった私は特に変わらない生活を送っていた。水曜日と土曜日は竈門ベーカリーへ行き炭治郎と過ごす。炭治郎は大分成績は上がってきたものの、私と勉強をするととても捗るらしくこれからもお願いしてもいいだろうか、と頼まれたのだ。そんなことを言われて嬉しくないわけがない。私が笑顔でいいよと言えば炭治郎はそれはもう嬉しそうに喜んでくれたのだった。

「斎藤さ、彼氏とか作んねーの?」

日誌を書いてるとクラスメイトの男子がそう声をかけてきた。このクラスメイトは高校一年の頃からずっと同じクラスで、普通に仲の良い友人の一人だ。

「相手がいないんです〜」

日誌から目線を外さずそう言うといつもなら「確かに〜」と笑って返事をしてくる彼からの返事がない。あれ、どうしたんだろう。と顔を上げると彼は顔を真っ赤にして私を見つめていた。

「じゃ、じゃあさ…俺と付き合わない?」
「へ?」
「俺、一年の時からずっと、斎藤のこと好きだったんだよ。…本気で」

この日私は生まれて初めて告白というものをされた。


***


「……、凛?」
「はえ!?あ、ご、ごめん…何?」

あの後私は返事をすることが出来ず、彼も「少し、考えてほしい」と言ってくれた。
そして今日は水曜日だったため炭治郎に勉強を教えに来たのだけど、どうしても気が散ってしまう。私の様子がおかしいことに炭治郎も気付いたのだろう。心配そうに私の顔を覗き込んでくる。

「具合でも悪いのか?だったら無理は…」
「あ!ううん!ち、違うの…」

炭治郎に心配をかけさせるのは良くないと必死に振る舞うけれど、これだけ付き合いが長いのだ。炭治郎を誤魔化すことなんて出来るはずがなかった。

「何かあったのか?俺で良かったら何でも聞くよ」

優しい炭治郎の声に少しだけ落ち着いた私は意を決して口を開いた。

「えっと……炭治郎って、女の子に告白されたことある?」
「え!?な、なんで急に……」

顔を真っ赤にさせて炭治郎が答える。
あ、あるんだ。でも確かに炭治郎って可愛いなとは思ってたけど顔も整ってるし優しいしモテないわけがないよなぁ。…なんだか先を越された気分だ。

「えーっとですね、今日、クラスメイトに告白をされてしまって…」
「……え?」

口に出してみると凄く恥ずかしい!そうか、わ、私、本当に告白されたんだな…。あんな風に顔を真っ赤にさせて真剣な目で好きだと言われたのは初めてだった。彼のことは嫌いじゃない。むしろ友達としては好きだ。…恋人同士というのはこうやって始まるものなのかな、なんて…

「それで、凛はなんて返事をしたんだ?」
「え、ま、まだ…返事はしてないけど…」

そう、まだ。いずれは返事をしなければいけないだろう。それはもしかしたら明日かもしれないし、もっと先かもしれない。だけど返事が今ほしいと言われたら私は…?

「どうしよっかな…彼氏はほしいけど…うーん、炭治郎は今までの告白は断ってたの?」
「うん。俺は好きな人がいるから」
「え!?」

炭治郎の突然のカミングアウトに思い切り声をあげてしまう。え、炭治郎好きな人いたの!?初耳すぎるんですけど!こんなにも一緒にいたのにこういう話はそういえばしてこなかったなぁ。
私は自分のことよりも炭治郎の好きな人が気になって前のめりに炭治郎に切り込んだ。

「炭治郎好きな人いたの!?えー!同じクラスの子とか?」
「ううん、違うよ」
「そうなんだ…私の知ってる人?」
「教えてほしい?」

炭治郎が優しく微笑んで私を手招きする。こそこそ話のジェスチャーをしてて、私はすぐに炭治郎の隣へと移動して炭治郎に耳を傾けた。
炭治郎の好きな子。聞きたいような、聞きたくないような。少し複雑な気持ちだけどやっぱり好奇心が勝る。私は炭治郎が口を開くのを待ってるけど、炭治郎はなかなか言葉を発しない。

「? たんじ──」

次の瞬間、私は炭治郎に押し倒されて唇を奪われていた。


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